著者
内田 周作
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.23-27, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
27

カルシウムイオンは,真核生物細胞におけるシグナルメディエーターとして広範な細胞機能の調節にかかわっている。脳神経系におけるカルシウムシグナルの役割としては,神経伝達物質の放出,神経細胞の分化・成熟,神経可塑性,神経細胞死などが知られている。一方,ストレスフルな環境は気分障害や不安障害などさまざまな精神疾患の発症リスク要因となることが知られているが,最近,このストレス環境によって惹起される神経可塑性異常や行動変容に対する神経細胞内カルシウムシグナル異常の関与が示唆されている。本稿では,ストレスによるカルシウムシグナル異常と行動変容・精神疾患との関連について概説したい。
著者
喜田 聡 内田 周作
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.17-24, 2005 (Released:2005-03-01)
参考文献数
12

情動行動は生命を維持するために生じる動物の本能的行動であり,外的・内的な様々な環境要因を反映して制御されると考えられる.我々は,核内受容体のリガンド結合ドメインをツールとして用いた遺伝子操作マウスの解析過程でヒントを得て,ステロイドホルモンや,ビタミンAの活性本体であるレチノイン酸などをリガンドとする一連の核内受容体群が情動行動制御に関わるのではないかと考え,この作業仮説を検討した.その結果,エストロゲン受容体,あるいは,レチノイン酸受容体のアゴニストを投与すると,マウスの不安行動が亢進すること,また,社会行動に変化が生じ,特に社会優勢度が上昇することが明らかとなった.さらに,野生型のエストロゲン受容体を前脳領域特異的に過剰発現するマウスを作製,解析したところ,過剰発現によってアゴニストを投与した場合とほぼ同様の効果が観察された.以上の点から,エストロゲンやレチノイン酸をリガンドとする核内受容体群が情動行動制御に関わっていること,さらに,生体内で恒常性維持に寄与するホルモンや必須栄養素が情動行動制御に関わる可能性が示唆された.