著者
喜田 聡
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.81-89, 2013-02-01 (Released:2014-02-01)
参考文献数
41

記憶のメカニズムと表現されると,最先端の研究とイメージされるかもしれない.しかし,記憶研究の歴史は古い.長期記憶を形成するための「固定化」の概念が提唱されてから,すでに100年以上が経過している.すなわち,セントラルドグマが登場するはるか昔から研究が進められていたわけである.そのため,記憶研究の用語は,もともと心理学領域のものであり,生物学の言葉で説明しきれず,いまだ抽象的にしか表現できないものも数多い.したがって,記憶メカニズムの生物学的研究では,文学的に描写された現象をいかに現代生物学の言葉に置き換えるかが課題である.この挑戦は手強いものの,魅力的でもある.この観点に立って,本稿をご覧いただきたい.
著者
喜田 聡
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

認知症克服は世界的課題である。主症状の一つが夕方に会話困難、徘徊、妄想的言動等の症状か増悪する「夕暮れ症候群」であるが、この機構は不明である。また、認知症の記憶障害は「想起(思い出せない)障害」である可能性も指摘されている。一方、代表者は生物時計に障害を与えた遺伝子変異マウスでは夕方に想起能力が低下すること、生物時計が想起を制御することを示しており、この成果から「夕暮れ症候群は生物時計の異常による時間帯依存的な想起障害と関連する」との仮説を立てた。本研究では、この仮説に基づき、生物時計の異常による想起障害の観点から夕暮れ症候群の機構解明を目的として、生物時計の障害と認知症との関連を追求する。
著者
喜田 聡 内田 周作
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.17-24, 2005 (Released:2005-03-01)
参考文献数
12

情動行動は生命を維持するために生じる動物の本能的行動であり,外的・内的な様々な環境要因を反映して制御されると考えられる.我々は,核内受容体のリガンド結合ドメインをツールとして用いた遺伝子操作マウスの解析過程でヒントを得て,ステロイドホルモンや,ビタミンAの活性本体であるレチノイン酸などをリガンドとする一連の核内受容体群が情動行動制御に関わるのではないかと考え,この作業仮説を検討した.その結果,エストロゲン受容体,あるいは,レチノイン酸受容体のアゴニストを投与すると,マウスの不安行動が亢進すること,また,社会行動に変化が生じ,特に社会優勢度が上昇することが明らかとなった.さらに,野生型のエストロゲン受容体を前脳領域特異的に過剰発現するマウスを作製,解析したところ,過剰発現によってアゴニストを投与した場合とほぼ同様の効果が観察された.以上の点から,エストロゲンやレチノイン酸をリガンドとする核内受容体群が情動行動制御に関わっていること,さらに,生体内で恒常性維持に寄与するホルモンや必須栄養素が情動行動制御に関わる可能性が示唆された.
著者
喜田 聡
出版者
東京農業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

我々は、獲得した情報を常に独立した記憶として新規保存しているわけではなく、新しい情報を既存の記憶に結びつける「記憶アップデート」を随時行っている。しかし、記憶アップデートの分子基盤はほとんど理解されていない。本課題では、複数のマウス記憶課題を用いて、記憶アップデートが誘導される場合に脳内でプロテオソーム依存的タンパク質分解が誘導されることを発見した。一方、記憶形成時にはこのタンパク質分解は観察されなかった。また、薬理学的手法を用いた解析では、このタンパク質分解を阻害すると記憶アップデートが阻害された。以上の結果から、プロテオソーム依存的タンパク質分解が記憶アップデートの起点となると結論した。