著者
高島 響子 東島 仁 鎌谷 洋一郎 川嶋 実苗 谷内田 真一 三木 義男 武藤 香織
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.147-160, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ゲノム研究/医療の発展のために,研究で利用した患者・市民を含む研究参加者個人のゲノムデータを多くの研究者等で共有するデータ共有(GDS)が広がっている.GDSではデータ提供者のプライバシーの保護並びに意思の尊重が倫理的な課題であり,データ提供者となりうる患者・市民の声を反映した仕組みづくりが重要である.GDSに関する患者・市民の期待と懸念について,高度に専門的かつ一般には適切な情報の入手が困難であるGDSに対する意見を得るため,情報共有と対話の二部構成からなる対話フォーラムを試行した.その結果,医療目的の研究・開発に対するGDSは理解と期待が示された一方で,非医学的な領域での利用やデータのセキュリティ,ゲノムリテララシーに対する懸念等が挙がった.研究者との対話を通じて,自身のデータが使われた研究の内容や成果を知りたいといった研究者に対する要望や,市民・患者の参画について具体的な提案が出された.
著者
谷内田 真一 髙井 英里奈
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.10-16, 2016-02-25 (Released:2016-03-15)
参考文献数
27

膵臓がんは「がんの王様」に君臨している.膵臓がんは他のがん種と比較し特異的ながん腫で,4つの遺伝子異常のみ(KRAS,CDKN2A/p16,TP53,SMAD4/DPC4)が高頻度に認められる.その一方で,他のがん種と同様に低頻度ながらも治療標的となりうる遺伝子異常も有している.例えば,DNA損傷・修復パスウェイの遺伝子変異(BRCA1,BRCA2,PALB2,ATMなど)である.これらの遺伝子異常を捉えるために,手術や生検検体を用いたClinical sequencingが行なわれている.しかし,がんにはHeterogeneityがあり,一ヶ所だけの生検材料だけでは,がんの全体像を把握できない.さらに,がんが生検困難な部位に存在する患者や全身状態の悪い患者には生検は躊躇われる.低侵襲かつ複数回の検査が可能で,その時々にドミナントながんクローンを検出する技術が開発されつつある.“Liquid clinical sequencing”である.血漿から遊離DNAを抽出して,治療標的となる遺伝子異常を探索する.未だ発展途上の技術ではあるが,今後の“Precision Medicine”には必要不可欠な検査法といえる.