著者
高島 響子 児玉 聡
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.75-85, 2012-09-19 (Released:2017-04-27)

近年英国で問題となっているスイスへの渡航幇助自殺は、渡航医療の一形態と捉えることができる。本稿では、英国国内の生命の終結をめぐる議論およびPurdy v. DPP判決の内容と判決後に出された自殺幇助の訴追方針を概観し、渡航幇助自殺が英国の自殺幇助の議論全体にもたらした影響について考察した。英国では、渡航幇助自殺を行った患者を手助けした家族は訴追されないケースが蓄積し、Purdy貴族院判決後には、自殺幇助における訴追方針の明確化が求められた。こうして、国内で自殺幇助を合法化することは実現しないまま、渡航幇助自殺を事実上許容する訴追方針が出された。国内の自殺幇助の問題が、渡航幇助自殺を包含する形で一応の解決に落ち着いたともとれる現状にあることがわかった。このような展開がもたらされたのは、渡航医療の存在が国内議論に変化を生じさせた結果だと考えられる。自国内で実施不可能な行為が、渡航医療の利用によって海外で実現されるケースが蓄積されることにより、国内規制の議論に一種の「緊張関係」が生じ、従来の論争構造とは異なる新たな展開が生まれる可能性が示唆された。日本においても、臓器移植や生殖補助医療などにおいて、渡航医療を利用するケースがすでに報告されており、今後はそのようなケースの蓄積が、国内の議論や規制に与える影響を検討する必要がある。
著者
高島 響子 児玉 聡
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.75-85, 2012

近年英国で問題となっているスイスへの渡航幇助自殺は、渡航医療の一形態と捉えることができる。本稿では、英国国内の生命の終結をめぐる議論およびPurdy v. DPP判決の内容と判決後に出された自殺幇助の訴追方針を概観し、渡航幇助自殺が英国の自殺幇助の議論全体にもたらした影響について考察した。英国では、渡航幇助自殺を行った患者を手助けした家族は訴追されないケースが蓄積し、Purdy貴族院判決後には、自殺幇助における訴追方針の明確化が求められた。こうして、国内で自殺幇助を合法化することは実現しないまま、渡航幇助自殺を事実上許容する訴追方針が出された。国内の自殺幇助の問題が、渡航幇助自殺を包含する形で一応の解決に落ち着いたともとれる現状にあることがわかった。このような展開がもたらされたのは、渡航医療の存在が国内議論に変化を生じさせた結果だと考えられる。自国内で実施不可能な行為が、渡航医療の利用によって海外で実現されるケースが蓄積されることにより、国内規制の議論に一種の「緊張関係」が生じ、従来の論争構造とは異なる新たな展開が生まれる可能性が示唆された。日本においても、臓器移植や生殖補助医療などにおいて、渡航医療を利用するケースがすでに報告されており、今後はそのようなケースの蓄積が、国内の議論や規制に与える影響を検討する必要がある。
著者
高島 響子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

メディカルツーリズムにおいて、患者の「渡航行為」により新たに生じる問題を抽出するために、近年英国で問題となっている英国からスイスへの渡航幇助自殺について、事例研究、文献調査、ならびに英国にて当事者への聞き取りを行った。その結果、英国内では実施することのできない自殺幇助を、実施可能なスイスに渡航して実現する人(患者)が登場したことで、英国内の議論に変化が生じたことがわかった。英国は、積極的安楽死ならびに自殺幇助を法律で禁じており、それらを望む人々による法改正等を求める裁判や運動が、20世紀初頭より繰り返されてきた。行方で、スイスは利他的な理由からなされた自殺幇助は法的に罰せられず、事実上実施可能である。2002年頃より、英国からスイスへと渡航して自殺幇助を受ける人が報告されるようになった。こうした「渡航幇助自殺」の増加に伴い、英国内において1.国内での自殺幇助実施を認める要請、2.渡航幇助自殺を認める要請の2方向で議論が起きた。現在のところ1.の要請は成功に至っておらず、一方2.については、2009年Debbie Purdyの貴族院判決において、渡航幇助自殺を求める原告が初めて勝訴し、渡航幇助自殺が事実上容認されたともとれる状況が生まれたことがわかった。国内では禁止規制により解決できない問題が、合法的に実施可能な他国の存在を利用した渡航医療を包含することで解消されるという構図が生じた。これを「一応の解決」とみなすことも可能だが、国内における実施容認へのさらなる要請、また受入国側の規制変化(渡航医療の受入制限)の可能性が考えられ、すでにそうした動きもみられた。以上のような渡航医療と国内規制および受入国との構図は、国によって法規制が異なる他の医療にも当てはまりうるものであり、日本において問題視される渡航臓審移植や渡航生殖補助医療の今後の議論の在り方に有用な示唆を与えた。