- 著者
-
内藤 大輔
- 出版者
- 林業経済学会
- 雑誌
- 林業経済研究 (ISSN:02851598)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.2, pp.13-22, 2010-07-01 (Released:2017-08-28)
- 参考文献数
- 30
森林管理協議会(FSC)は,環境保全の点からみても適切で,社会的な利益に適い,経済的にも継続可能な森林管理を推進することを目的としている。本稿では,マレーシア・サバ州キナバタンガン川中流域に位置するD保存林に隣接する村落において,先住民の権利に関わるFSC原則と規準の運用状況を検証した。林業局はD保存林でFSC認証を取得後,認証機関による改善要求により,違法伐採の取締りのため境界管理を厳格化した。それに伴い,村人の慣習的な森林利用も制限されていた。FSCは本来,先住民の権利を保障することを目的としているが,本稿の事例では,森林法が厳しく適用された一方で,先住民の慣習権が適確に認知されなかったため,先住民の森林利用が制限されることとなった。先住民の慣習的な森林利用が,法律や制度によって十分認められていない地域では,土地や森林資源の利用をめぐる対立が潜在していることが多く,森林認証制度の導入により,それが顕在化することがある。そのため森林管理者や認証機関は,既存法では先住民の慣習的な権利が保障されないことが多いことを認識した上で,認証基準を適用すべきであろう。