著者
冨山 敦史
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = TOKOHA UNIVERSITY FACULTY OF EDUCATION RESEARCH REVIEW
巻号頁・発行日
no.38, pp.55-68, 2017-12-31

本稿は、今日「詩聖」という名を冠している杜甫(七一二~七七〇)の詩が如何に残されたのかを当時の社会状況と杜甫の生活や行動を踏まえつつ、「詩家自覚」という視点から、その可能性を考えたものである。詩家自覚を杜甫自身の「詩を残す、詩を伝える」ことと捉え、「宮廷の書庫に保管すること」、「寺院等へ保管すること」、「友人に託すこと」、「援助者に託すこと」、「詩人仲間に託すこと」、「家族に託すこと」の六つの可能性を挙げた。その中で「家族に託すこと」の可能性が、「①子どもに託すこと」、「②家族に託すこと」、「③家族を増やすこと」の三つの観点から考えられ、それぞれの可能性の実現に向けて、杜甫が当時の社会情勢や息子たちの特性を見極めて、その時点での選択肢を考慮しつつ、死に至るまで行動を続けたことを述べた。この杜甫の行動の根底が「詩家自覚」であり、それが最終的に自身の「詩集」を後世に残し、伝えることを実現させたと考えた。