著者
出口 憲 鍛治山 凌
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review. (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.37, pp.201-212, 2017-03-01

理科における「音」に関する単元は、中学校第1分野の「音の性質」、高等学校物理基礎の「音と振動」、同物理「音」がある。現在の小学校理科に音の単元はないが、音は子供にとって身近な現象であり、その意味でも以前のように小学校理科で扱われるべきであると考える。本研究では、かつての小学校理科でも扱われており、子供にとっても身近な「糸電話」を取り上げ、糸電話を通して聞くと音が変化して聞こえる点に着目し、音がどのような原因で変化するかを実験により詳細に調べ、理論的な考察を行った結果、以下のことが明らかになった。(1)糸の長さや材質は張力を大きくすれば音にほとんど影響しない。(2)コップを長くしていくと膜の共振周波数から管の共振周波数へと移行する。(3)通常の糸電話であればコップの膜の共振が音の変化の主原因である。
著者
大森 貴弘
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = TOKOHA UNIVERSITY FACULTY OF EDUCATION RESEARCH REVIEW
巻号頁・発行日
no.38, pp.409-425, 2017-12-31

ドイツでは、かつては日本と同じく離婚後単独親権を民法で定めていた。しかし、1982 年に連邦憲法裁判所は、離婚後の例外なき単独親権を定めた民法1671 条4 項1文の規定が、親の権利を定めた基本法6 条2 項1 文の権利を侵害すると判示した。これ以後、ドイツでは離婚後の例外なき単独親権は違憲となり、個別事例での対応が続いていたが、1998 年に親子法改正法(1997 年制定)が施行され、離婚後共同親権(共同配慮権)が法制化された。
著者
木宮 敬信 大矢 隆二
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.37, pp.75-83, 2017-03-01

タイ王国は、2012 年度よりインラック政権による「One Tablet PC per Child」政策のもと、全国の初等教育1 年生にタブレットPC を無償配布している。しかし、ハード面、ソフト面ともに様々な課題が指摘され、現在十分に当初の目的を果たしているとは言い難い現状が報告されている。そこで、ICT 教育の充実が求められる日本における参考になる知見を得るために、2016 年にタイ王国バンコク市内の3 校の小中学校を視察し、タブレットPC の活用状況について調査を行った。その結果、政府支給のタブレットPC を使用している学校、学校独自のタブレット教育を行っている学校等様々な活用状況を視察することができた。その結果、アプリケーション等のソフトの充実や教師のIT スキルが活用のための最重要課題であることが理解できた。
著者
久留戸 涼子 高田 勇太朗 明石 真弥
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.313-331, 2016-03-31 (Released:2016-07-08)

モンシロチョウの成長過程には、様々な環境要因が影響を及ぼすことが考えられる。本研究では、まず、幼虫の成長に及ぼす温度と湿度の関係について調べた。その結果、幼虫の飼育に最も適していた条件は、室温(20 ~ 25℃)で高湿度(80 ~ 100%)であった。また、最も適していない条件は、高温(28 ~30℃)で高湿度であった。また、蛹の色に影響を及ぼす環境要因として、背景色と温度について検討した。蛹の色は、低温では褐色系、高温では緑色系となる傾向が確認され、蛹の色は背景色だけではなく、温度の影響を受けることがわかった。幼虫の食草の選択では、幼虫はキャベツ液を吹きかけたアブラナ科以外の植物にも引き寄せられたが、食草として食べたり、そこにずっと留まっていたりすることはなかった。これらの結果から、モンシロチョウの成長は、温度や湿度などの環境要因に影響され、飼育の際には留意しなければならないことがわかった。
著者
井出 学
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.333-342, 2016-03

本稿は平成25年2月9日(土)に行われた研修センターゼミ2日目「体験学習活動(おもしろ算数教室)」についての報告および講義録である。本講座では一年次後期に学習する集合論を復習し、集合論を用いて、有名な数学クイズである「分銅問題」の回答および証明を与えた。
著者
山根 悠介
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.301-312, 2016-03-31

本研究は、静岡県における最近30 年間(1981 年から2010 年まで)の降水量の経年変化について調べたものである。 最近30 年間における変化傾向(回帰係数)を調べた結果、県北部の山間部(井川、梅ヶ島、白糸)及び伊豆半島中部(湯ヶ島)と東部(稲取、網代)で正のトレンドが、県の西部では負のトレンドが卓越していた。しかし、統計的に有意なトレンドは全地点で検出されなかった。 最近30 年間における降水量の経年変化の特徴をより詳細に明らかにすべく、残差和曲線による解析を6 地点(浜松、御前崎、静岡、三島、石廊崎、網代)を対象に行った。その結果、浜松と石廊崎では30 年間の始めから中頃までは上昇傾向、中頃から期間終わりまでは下降傾向がそれぞれ見られた。網代においては、30 年間の始めごろは下降傾向、期間の中頃から終わりにかけては上昇傾向を示していた。御前崎、静岡、三島については、特に目立った特徴は見られなかった。
著者
木宮 敬信
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.237-246, 2016-03-31

2014 年度~ 2015 年度にかけて、看護系学科、理学療法系学科、法律系学科に所属する大学生を対象に出生前診断に関するアンケート調査を行った。その結果、出生前診断に関する認知は、所属する学科の教育内容に影響を受けるものの、受診希望については教育の影響を受けないことが明らかとなった。ダウン症候群についての理解との関連では、理解している人に、出生前診断の受診を希望する人の割合が高いことが明らかとなった。また、出生前診断の受診を希望する人ほど、胎児に障害がある場合に中絶したいと回答する人の割合が高くなる傾向があり、逆に受診を希望しない人ほど出産したいと回答する人の割合が高くなることが明らかとなった。この結果から、妊婦の自己決定の重要性とともに、十分な教育なしにマススクリーニング検査化していくことへの危倶が指摘された。
著者
百瀬 容美子 伊藤 宏
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.38, pp.297-305, 2017-12

本研究は,日本トップ水準の先天全盲ゴールボール選手の守備場面におけるイメージ生成構造を解明して,ゴールボール版の視覚障害児童・生徒・成人向け運動イメージ生成評価基準の項目作成することを目的とした.個人別態度構造分析の結果,1)音を聞いて攻撃者となるボールを持っている相手選手を特定する,2)その選手から投げられるボールの道筋と守備防壁となる味方同士の重なりを想定する,3)センターポジションでボールを待ち守備するという3 つの構造が見出された.この知見に基づいて,「ボールが弾む軌跡をイメージすることができますか?」「自分と味方、相手、ボールの動きを俯瞰的にイメージすることができますか?」といった20 項目,7 段階評定の質問項目を作成した.今後の課題は,信頼性と妥当性の確認を行うことである.
著者
百瀬 容美子 伊藤 宏
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = Tokoha University Faculty of Education research review (ISSN:2188434X)
巻号頁・発行日
no.37, pp.281-293, 2017-03

本研究では,先天全盲選手向け運動イメージ生成尺度の原案を提案することを目的とした.そのために,我が国トップ水準にあるブライドサッカー選手1 名のPAC(個人別イメージ構造)分析を行った.その結果,先天全盲選手ならではのイメージの利用として,1)運動イメージを描く上で競技場であるピッチに対する全体的な俯瞰図としてイメージしていること.2)自分の動きと相手選手との相互距離感をイメージしていること,3)自分と味方選手との距離感,味方のゴールキーパーとの距離感も考慮に入れた空間的なイメージをしていたことが判明した.こうした新たな知見である3 カテゴリーに関して,国内外を通して高い信頼性と妥当性が確認されている視覚心像鮮明性質問紙(Vividness of Mental Imagery Questionnaire:VVIQ) に倣い,5 件法で20 項目からなる先天全盲選手向け運動イメージ生成尺度原案が作成された.
著者
山﨑 正
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = TOKOHA UNIVERSITY FACULTY OF EDUCATION RESEARCH REVIEW
巻号頁・発行日
no.38, pp.391-399, 2017-12-31

J.S.Bach の平均律クラヴィア曲集のプレリュードには様々な音楽様式が用いられている。曲集の第1巻の第1曲に位置するBWV846 のPrelude の作曲手法は,あまりにも単純な分散和音形による作品になっていることから,先行研究による分析方法を探る。本論文は,作曲家がこの曲にどのような意味を込められているか明確にすることを目的としている。また,先行研究では和声分析によるものが殆どで,当時の和声では解明できない部分に対する答えが曖昧となっている。本論ではこの点に着目し,対位法的考察方法で解明できないかという仮定のもと,分析を行っている。 その結果,和音構成音を5声部に分けて考察していく方法を用いることで,声部間で主題がStretto されていることが見え,これによって音楽的緊張を作り出していることから和声法では解明できない音の衝突が起こったと推察できることが判明した。
著者
冨山 敦史
出版者
常葉大学教育学部
雑誌
常葉大学教育学部紀要 = TOKOHA UNIVERSITY FACULTY OF EDUCATION RESEARCH REVIEW
巻号頁・発行日
no.38, pp.55-68, 2017-12-31

本稿は、今日「詩聖」という名を冠している杜甫(七一二~七七〇)の詩が如何に残されたのかを当時の社会状況と杜甫の生活や行動を踏まえつつ、「詩家自覚」という視点から、その可能性を考えたものである。詩家自覚を杜甫自身の「詩を残す、詩を伝える」ことと捉え、「宮廷の書庫に保管すること」、「寺院等へ保管すること」、「友人に託すこと」、「援助者に託すこと」、「詩人仲間に託すこと」、「家族に託すこと」の六つの可能性を挙げた。その中で「家族に託すこと」の可能性が、「①子どもに託すこと」、「②家族に託すこと」、「③家族を増やすこと」の三つの観点から考えられ、それぞれの可能性の実現に向けて、杜甫が当時の社会情勢や息子たちの特性を見極めて、その時点での選択肢を考慮しつつ、死に至るまで行動を続けたことを述べた。この杜甫の行動の根底が「詩家自覚」であり、それが最終的に自身の「詩集」を後世に残し、伝えることを実現させたと考えた。