著者
冨田 浩輝 黒澤 和生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101242, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】骨格筋への振動刺激は脊髄内の介在神経細胞を活性化し,シナプス前抑制により筋緊張を抑制する事が知られている.シナプス前抑制機能は,痙縮と深く関与している事が示唆されており,条件刺激と試験刺激を異なる筋に対して実施する方法により検討されている.しかし,振動刺激における筋緊張抑制効果において,条件刺激と試験刺激を異なる筋に対して実施した報告は少ない.また,この条件において,異なる振動周波数を用いて筋緊張に及ぼす影響を検証した報告はない.本研究の目的は,膝蓋腱や大腿二頭筋腱に異なる周波数の振動刺激を負荷し,同側ヒラメ筋のH波に及ぼす影響を明らかにする事である.【方法】対象は下肢に神経障害の既往のない健常成人男性42名であり,被験筋はヒラメ筋とした.すべての対象者には膝蓋腱と大腿二頭筋腱に振動刺激(80Hz,100Hz,120Hz)を負荷する2条件を設定し,誘発筋電図(日本光電社製)を用いて,安静時と振動刺激中,振動刺激直後,振動刺激終了5分後のH波とM波の最大振幅比を算出した.振動刺激装置には,旭製作所製WaveMakerを使用した.本研究における統計処理には,統計解析ソフトウェアSPSS18を使用した.各条件内における時間経過の検討として,反復測定一元配置分散分析を行った.尚,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り本研究を実施した.研究に先立ち,所属機関の倫理委員会において承認を得た.全ての対象者には事前に本研究の内容やリスク,参加の自由などの倫理的配慮について口頭および文書で説明し,書面にて同意を得た.【結果】膝蓋腱への振動刺激では,80Hzの周波数において,振動刺激中の最大振幅比が,その他の値と比べ有意に低値を示した.100Hzの周波数においては,振動刺激中の最大振幅比が安静時と比べ有意に低値を示した.また,振動刺激直後は振動刺激5分後よりも有意に低値を示した.120Hzの周波数においては,振動刺激中の最大振幅比が,振動刺激直後と振動刺激5分後と比べ有意に低値を示した.大腿二頭筋腱への振動刺激では,80Hzの周波数において,どの間に関しても有意差は認められなかった.100Hzの周波数においては,振動刺激中の最大振幅比は振動刺激直後と振動刺激5分後において有意に低値を示した.また,振動刺激直後の最大振幅比が振動刺激5分後の最大振幅比と比べ有意に低値を示した.120Hzの周波数においては,安静時と比べ振動刺激中と振動刺激直後で有意に低値を示し,振動刺激中は,安静時と振動刺激5分後と比べ有意に低値を示した.また,振動刺激直後は,安静時と振動刺激5分後と比べ,有意に低値を示した.【考察】今回,条件刺激と試験刺激を異なる筋に負荷し,膝蓋腱や大腿二頭筋腱といった異名筋への異なる周波数の振動刺激が,ヒラメ筋H波に及ぼす影響を検証した.本研究では,膝蓋腱への100Hz以上の振動刺激では,振動刺激中のH波は安静時よりも低値を示すが,振動刺激終了後は脊髄興奮性が上昇し,同側ヒラメ筋のH波を促通するという先行研究を支持する結果となった.しかし,80Hzの振動刺激においては,振動刺激中のヒラメ筋H波は有意に低値を示し,振動刺激直後も有意差は認められなかったが,最大振幅比は低値を示した.これは,膝蓋腱への80Hzの振動刺激は,ヒラメ筋H波を抑制した事が示唆され,Ericらの報告における,振動刺激が脳卒中後の足関節底屈を伴う下肢の異常な同時収縮を調整する可能性について支持する結果となった.更に,大腿二頭筋腱への振動刺激では,80Hzの周波数では,ヒラメ筋H波の抑制は得られず,大腿二頭筋に緊張性振動反射は生じなかったことが予想される.しかし,100Hz以上の周波数では,振動刺激中のH波の抑制が生じ,120Hzでは振動刺激終了直後でもH波の抑制が確認された.このことから,緊張性振動反射を誘発するには100Hz以上の周波数が必要であり,より強く筋収縮が誘発される事で,拮抗関係にある筋に対する抑制効果が増大する事が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究において,振動刺激とシナプス前抑制は深く関与していることが明らかとなった.また,120Hzの振動周波数で大腿二頭筋腱へ振動刺激を負荷する事が,同側ヒラメ筋の筋緊張抑制に有効であることが示唆された.更に,振動刺激には,電気刺激同様の効果が期待できることが示唆され,その効果には振動周波数が深く関与していることが明らかとなった.今後,振動刺激が筋緊張に及ぼす影響や,その他の治療方法との比較などさらなる検討が必要であると考えられるが,本研究により,振動刺激が痙縮に対する有効な治療手段として臨床応用することや,家庭でのホームエクササイズの一つとして活用していく事が期待できるのではないかと考える.