著者
内藤 笑美子 出羽 厚二 山内 春夫
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.746-751, 1995-12-15

ヒトの性別は,通常性染色体により決められている。男性はX染色体とY染色体を各々1本ずつ,女性は2本のX染色体を有している。ヒト細胞の染色体数が46,XY(男性),46,XX(女性)であることが明らかになったのは1956年TjioとLevanによるものであった。DNA分析が盛んになるまでは,性別を判定するために染色体の核型分析(G染色やQバンド)法,あるいは女性のX染色体に由来するX-クロマチン(Barr body)1)やY染色体由来のY-クロマチン(Y-body F-body)2)を検出する方法が行われてきた。現在では,性染色体DNAの塩基配列も次々と解析され,性別判定に利用されている。1985年にPCR法3)が開発されてからは,もっぱらX染色体やY染色体に特異的であるDNA配列をマーカーとした種々のPCR法による性別判定法が行われている。これらの方法は,臨床では胎児の出生前診断4)や性染色体異常の診断5),また異性間で行われた骨髄移植のドナー細胞生着確認6)などに利用されている。法医学領域でも性別の判定は重要である。法医試料について,性別を知ることは個人を識別する上で重要な情報となる。なぜなら各個人の生前の性別はほとんどわかっているからである。特に男女の形態的特徴が欠けている場合,たとえば白骨の一部,バラバラ死体や焼死体などの身元確認に性別判定が役立っている。