- 著者
-
茂木 健一郎
- 出版者
- 金原一郎記念医学医療振興財団
- 雑誌
- 生体の科学 (ISSN:03709531)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.1, pp.82-86, 1995-02-15
I.「意識」における時間の流れ 21世紀は科学者にとって,脳の世紀となるだろうと予測されている。すなわち科学にとって,真のフロンティアは脳科学であるということである。そして,脳のさまざまな属性の中でも「意識」の問題は,最もその究明が困難な,しかし同時に本質的な問題であると考えられている1-3)。「意識」の問題に対するアプローチにはいろいろあるが,科学的なアプローチとして有力なものは,「意識」が脳における情報処理過程において,どのような役割を果たしているかという設問である。端的にいえば,「意識」と呼ばれるような実体が存在しなければ,実行できないような情報処理が存在するのかという問題である。どのような情報処理が,「意識」が存在しなければ実行できないのかという問題は,それ自体が未解決の問題であって,慎重な議論が行われなければならないが,本稿では,異なるモダリティの情報を単一の時間と空間の枠組みの中で統合することが,「意識」の計算論的な意義であるという作業仮説を採用することにする。 上の作業仮説をとりあえず認めたとして,それでは,「意識」における単一の時間と空間の枠組みは,どのようにして生じてくるのだろうか。この問題に現時点で科学的にアプローチするとしたら,どのような手法が可能なのだろうか。