著者
初沢 敏生
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.348-367, 2005-12-30 (Released:2017-05-19)

近年,産業集積地域における革新に関して多くの研究がなされている.これは地域経済を振興するための視点として重要であるが,地場産業産地に関しては,このような研究は十分に蓄積されているとは言い難い.そこで,本小論では益子陶磁器産地と笠間陶磁器産地を事例に,産地の革新の特徴と,それが地域的生産構造に与えた影響について検討した.地場産業産地の革新には,新製品開発と,それを支える技術・技能の習得システムが重要な役割を果たす.益子産地では濱田庄司の来住と民芸陶器の導入という外部からの刺激を産地として受け止め,さらにそのための人材育成システムが産地内部に形成されたことが産地の革新を可能にした.その後,これに対応する形で産地の生産・流通構造が形成され,産地を発展させた.しかし,生活様式の変化などに対応するため,現在,栃木県窯業技術支援センターなどが中心となり,新たな革新が進められつつある.一方,笠間産地では窯業指導所などの公的機関が産地の革新をリードした.ここでは窯業指導所が技術・技能面の研究・開発に加え,製品開発やその普及,人材育成などに関しても大きな役割を果たした.また,行政も産業基盤整備を積極的に行い,陶磁器業の発展を支援した.笠間産地の生産構造は,基本的にこの上に成り立つものである.近年,笠間産地も新たな課題に直面しているが,ここでは公的機関の支援による産地形成という枠組みを維持したまま新たな革新が進められている.産地の革新にあたっては,産地の内外をネットワーク化することが必要であるが,それにあたり,公設試験場の果たす役割が重要になってきている.