著者
山﨑 けい子 初鹿野 阿れ
出版者
富山大学人文学部
雑誌
富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
巻号頁・発行日
no.57, pp.25-38, 2012

日本語学習者が日本語で会話を行うには,様々な問題が起こる。例えば,自分が言いたいことが言えない,相手の言ったことが聞き取れない,理解できない,などである。それらは日本語母語話者にも起こり得ることであるが特に日本語学習者にとって,このようなコミュニケーション上のトラブルへの対処のプロセス,つまり「修復」のフロセスを明らかにすることは,適切な問題対処法を学ぶ上で重要である。しかしながら,会話における「修復」のフロセスをどのように日本語学習者に示し得るか,学習者がどのように学び得るかという点においては議論の余地がある。そのような微細なプロセスは実際の会話の中で自然習得されるものだという考え方がある。一方,より現実に近い会話例を教材として示しながらその詳細なやりとりに焦点を当て示していくことが可能だという主張もある。もちろん二項対立の議論ではなかろうが,本稿では手始めとして後者の立場に立ち,どのように「修復」のプロセスを教材の中で示し得るのか,その可能性を探りたい。そのために,まず,既存の日本語教科書の聴解教材などにおいて実際に「修復」をどのように扱っているかを調べ,その傾向を明らかにする。それを踏まえ「修復」のタスク内での役割を考察し,今後の方向性を探る。
著者
山﨑 けい子 初鹿野 阿れ
出版者
富山大学人文学部
雑誌
富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
巻号頁・発行日
no.66, pp.31-42, 2017

日本語教師養成のため,教育実習や模擬授業等の指導を行う立場として,日頃感じている印象がある。経験のない,あるいは浅い日本語教師を目指す者が,教師として授業を進める際に,教師と学習者の一対一のやり取りになりがちであるという点である。例えば以下のような例をみてみよう。 <教育実習生と学習者のやり取りの例> 教育実習生:Aさん, 昨日何をしましたか. 学習者A :昨日::, テレビを見ます. 教育実習生:(.)見ました. 学習者A :見ました. 教育実習生:はい, そうです. 教育実習生が「Aさん, 昨日何をしましたか」と指名質問し,学習者Aが「昨日::, テレビを見ます」と答え,そこに教育実習生が誤りを認識しても,遅れがちに訂正をする。学習者Aが「見ました」と繰り返して理解を示すと,「はい, そうです」と評価のみをする。その周りの学習者たちはただ聞いているだけでこのやり取りの外に置かれ,教師はクラス全体に対応することにはなっていないという点である。ベテランの日本語教師であるならば,「はい, そうです」ではなく,「はい, 昨日, テレビを見ました」と繰り返し,耳から入れるインプットの量を増やし理解を確実にしようとすることもあるだろう。加えてその後,コーラスでその他の学習者に繰り返しを求めるかもしれない。 本稿の目的は,教師主導の活動において日本語学習者の発話の誤りに訂正を加えるという,基本的な授業会話の技術に着目し,経験のある日本語教師がどのように行っているのかを詳細に示すことにある。そのために,教師が,日本語学習者の発話の誤り(発話,文法,語彙など)に対して,訂正を開始,訂正,終了する,一連のやり取りを,会話分析的手法を利用し示したい。