著者
北 将樹 武仲 敏子 別所 学 Andres D. Maturana 木越 英夫 大舘 智志 上村 大輔
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 第60回天然有機化合物討論会実行委員会 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.109-114, 2018 (Released:2021-09-26)

1.はじめに 新規神経毒の化学的解明は,薬理学,神経科学,精神医学など,広範な生命科学の発展に寄与する.自然界からは様々な生物から有毒物質が見いだされているが,毒を持つ哺乳類は非常に稀であり,食虫目トガリネズミやソレノドン,単孔目カモノハシなどしか知られていない.またこれらの毒は稀少かつ不安定であり,活性物質は長らく未解明であった.トガリネズミは唾液に毒を持ち,ミミズなど獲物を麻痺させる小型哺乳類である.北米に棲息するブラリナトガリネズミBlarina brevicaudaは特に強い毒を持ち,カエルやネズミなど脊椎動物も餌としてしまう(図1).演者らはこれまでに,この種の顎下腺から脊椎動物に対して麻痺と痙攣を引き起こす致死毒ブラリナトキシンを発見し,その構造を分子量35 kDaの糖タンパク質と決定した1).ブラリナトキシンはセリンプロテアーゼの一種カリクレインと高い相同性を示し,またセリンプロテアーゼ阻害剤によりその酵素活性およびマウス致死活性が阻害されることから,致死毒の本体であると結論づけた. 一方で,ブラリナトキシンを獲物に注入してから毒性を示すまで数時間以上かかること,およびトガリネズミが主な餌とするミミズや昆虫など無脊椎動物には効かないことから,この動物の唾液成分にはタンパク毒素とは異なる麻痺物質が含まれると予想し,顎下腺抽出物の分離を再検討することとした.