著者
松本 剛 山口 元太朗 秦 大介 坂野 喜一 利倉 悠介 田上 友香理 上野 隆司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2079, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 肩関節後面筋のトレーニングは上腕骨の回旋運動を用いてトレーニングされることが多い。しかし、肩関節後面にある回旋筋の棘下筋、小円筋の走行を考えると、側臥位で肩関節屈曲位からの水平外転運動もトレーニングの方法として適切なものと考えられる。そこで今回水平内転方向の負荷をあたえ、側臥位にて肩関節屈曲角度を変えた状態で肩後面筋の筋活動を計測し、その筋活動を肩関節下垂位での外旋運動(以下1st外旋)と比較することで回旋運動を伴わない状態での肩関節後面の筋活動を明らかにすることを目的とした。【対象および方法】 対象は肩関節に愁訴のない男性18名(年齢24.4±3.9歳、身長173.6±5.8cm、体重67.6±11.1kg)で運動特性のない非利き手(全例右利き)を計測に用いた。測定肢位は側臥位にて仙骨部と足部を壁に接地し、体幹は20°屈曲位とし頚部と体幹の側屈、回旋はおこさないよう指示した。計測肢位は1st外旋位、肩関節60°屈曲位、90°屈曲位、120°屈曲位、150°屈曲位で前腕遠位部に重垂1kgを把持させ、それぞれ8秒間の等尺性収縮を計測した。被検筋は三角筋後部線維(DP)、小円筋(TM)、棘下筋(ISP)とし、得られた波形は2秒間の平均振幅を求め各筋の最大収縮時の値で正規化(%MVC)した。筋電計はMYOSYSTEM1400を用い解析にはMyoresearchを用いた。統計学的分析には二元配置分散分析および多重比較検定を用い有意水準5%未満とした。【説明と同意】本研究の対象者には研究前に主旨と方法を口述にて説明し書面にて同意を得た。【結果】 %MVCは各筋DP、TM、ISPの順に1st外旋位では、2.06±1.33%、3.67±1.55%、3.32±1.45%、60°屈曲位で11.35±6.46%、6.43±2.67%、4.36±1.74%、90°屈曲位で9.91±5.22%、7.40±3.73%、5.53±2.44%、120°屈曲位で、6.03±3.05%、7.86±6.06%、5.70±2.43%、150°屈曲位で7.58±4.15%、8.96±5.29%、5.78±2.47%であった。DPでは1st外旋位とすべての肢位、60°屈曲位と120°屈曲位150°屈曲位、90°屈曲位と120°屈曲位150°屈曲位において有意差を認めた(P<0.05)。TMでは1st外旋とすべての肢位、60°屈曲位と150屈曲位°に有意差を認めた(P<0.05)。ISPにおいては有意な差は認められなかった。DPは60°、90°屈曲位において活動量が増加し、1st外旋位は有意に活動量が減少していた。TMは120°、150°屈曲位で筋活動量が増加し、1st外旋で有意に減少していた。ISPは1st外旋と屈曲位との活動量に有意差はないが肩関節の屈曲角度の増加に伴い筋活動の増加が認められた。【考察】 DPは1st外旋位と比較すると他の全ての肢位に有意な活動量の増加がみとめられた。Reinoldらは側臥位での1st外旋は三角筋の活動を抑制した状態で棘下筋、小円筋を選択的に活動することができると報告している。今回の結果はこの報告の通り1st外旋位でのDPの活動は他の全ての肢位と比較すると活動量は減少していた。逆にTMは報告とは異なり1st外旋位での活動量が他の全ての肢位よりも増加した。またTMは60°屈曲位と比較すると150°屈曲位で有意に活動量が増加していた。TMは肩甲骨外側に起始部をもち上腕骨大結節外側部に停止部をもつ筋である。肩関節が挙上位になるとその距離は離れ筋の長さは長くなる。これによって仕事量が増加しTMの活動量が増加したと考えられる。DPは他に60°、90°屈曲位では120°、150°屈曲位と比較すると有意に活動量が増加していた。これはDPが起始部を肩甲棘、停止部を三角筋疎面にもち肩関節60°、90°屈曲位での水平内転方向への負荷は起始部と停止部が直線上にあり、筋の走行に対して垂直方向に負荷がかかるため活動量が増加したと考える。120°、150°屈曲位で活動量が減少した理由は上腕骨が挙上するにつれて肩甲棘に起始部をもつDPは起始部と停止部が近く、筋の走行が一直線にならず水平方向へ参加する筋線維の量が減少したためと考えられる。ISPは肩関節が挙上するに伴い活動量も増加傾向をしめしたが、有意な差はなかった。これはISPが起始部を肩甲骨棘下窩という広範囲にもつこととKuechle、Kuhlmanらは中部繊維や下部繊維の大きさは外転により顕著な差が生じず、上肢挙上に伴い筋の発揮する力は小さいことから、肢位に関わらず最も強力な外旋筋であると報告していることから肩関節屈曲角度の増加に伴い筋の長さが長くなり増加傾向をしめしたが、有意な差がみとめられなかった一因と考える。【理学療法学研究としての意義】 臨床場面において肩関節屈曲方向の可動域獲得ができれば回旋運動を伴わずとも肩後面の筋活動を高めることができる。等尺性の筋力トレーニングでは負荷量だけでなく起始停止の位置つまり、筋の走行を考慮した様々な角度、肢位で実施することが重要である。