著者
前田 光哉
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2015-0025-CHO, (Released:2016-08-11)
参考文献数
66

2011年の東電福島第一原発事故の教訓を踏まえ,厚生労働省においては,今後仮に原子力発電所に事故が発生した場合に備え,労働者が緊急作業に従事している間の被曝線量の管理について検討した.検討の基本的な考え方は,①ICRPの正当化原則,②緊急被曝限度の考え方,③原子力災害の危機管理の観点,④ICRPの最適化原則に基づくものであった.厚生労働省は,検討結果を基に2015年8月に改正電離則を公布した.改正の内容は,①特例緊急被曝限度の設定,②特例緊急作業従事者の限定,③被曝線量管理の最適化,④特例緊急作業従事者に係る記録等の提出等,⑤緊急作業従事者の線量の測定及びその結果の確認,記録,報告等の5点である.また,特例緊急被曝限度の設定に当たっては,数多くの文献レビューの結果に基づき検討したが,同様に低線量被曝の文献レビューを行った食品安全委員会及び低線量被曝のリスク管理に関するワーキンググループの検討結果を紹介するとともに,最近の低線量被曝に係る主要な文献の内容を紹介した.今後,放射線作業に従事する労働者の線量管理方策を検討する場合は,高線量の急性被曝だけではなく,低線量の慢性被曝による健康影響を考慮に入れる必要がある.それに備えて,長期的に労働者を追跡した疫学研究を積極的に推進していく必要がある.