著者
加畑 宏樹 浅野 浩一郎
出版者
医学書院
雑誌
呼吸と循環 (ISSN:04523458)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.944-950, 2015-10-15

はじめに 気管支喘息は,慢性的な気道炎症と可逆的な気道狭窄,気道過敏性の亢進を特徴とした呼吸器疾患である.気管支喘息の病態を解明するため,これまでに様々な喘息モデルマウスが作成されてきた.最も頻用される喘息モデルマウスとしては,卵白アルブミン(OVA)を用いた喘息モデルマウスが知られている.このモデルマウスの作成方法は,まずOVAと一緒にアジュバント(免疫反応を増強させる物質)である水酸化アルミニウム(アラム)をマウスの腹腔内に投与することにより,OVAに対する感作を成立させる.そして,この感作が成立したマウスに吸入や点鼻などの方法で気道内にOVAを投与(曝露)すると,好酸球性の気道炎症や気道上皮細胞の杯細胞過形成,気道過敏性の亢進といった喘息様の病態が生じる.この喘息モデルマウスを用いて様々な研究が行われ,喘息の病態にはTh2細胞が重要な役割を担っていることが明らかになった.また,Th2細胞が産生するIL-4やIL-5,IL-13などはTh2サイトカインと呼ばれ,IL-4はB細胞からのIgE抗体の産生,IL-5は好酸球の遊走や生存,IL-13は杯細胞過形成や気道のリモデリングに関与していることなども明らかになった.これらの喘息モデルマウスによって明らかになった知見は,実際に喘息患者の治療に応用され,Th2サイトカインを標的とした抗体治療が重症喘息に対する新しい治療薬として現在開発されている. 一方,喘息の病態は,上記のようにアレルゲンがはっきりしたアトピー型の喘息患者と,アレルゲンがはっきりしない非アトピー型の喘息患者が存在することが古くから知られていたが,非アトピー型喘息の病態はこれまでよく理解されていなかった.しかし,近年,獲得免疫やTh2細胞を介さずに,好酸球性気道炎症や気道過敏性などの喘息様病態を生じる喘息モデルマウスが作成され,そのような病態ではグループ2自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cell;ILC2)がTh2サイトカインの産生源として重要な役割を担っていることが明らかになった. 本稿では,ILC2に関しての概略を解説した後に,喘息モデルマウスにおけるILC2の関与と実際の喘息患者におけるILC2の役割について私見を含めて解説したい.