著者
菅披 和彦 藤井 綾子 加藤 俊作 水口 純
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.1238-1242, 1969-06-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
8
被引用文献数
1

この研究では黄色亜酸化銅と赤色亜酸化銅の相互転換の可否を確かめ, その結果に基づいて, 黄色亜酸化銅から赤色亜酸化銅の製造条件を明らかにすることを目的とした。赤色亜酸化銅を摩砕すると, 粒子が細かくなるにつれて, その色は黄色に変化した。黄色亜酸化銅を窒素ふん囲気中で900℃に,または蒸留水中で290℃に加熱すると,その色は赤色に変化した。この赤色亜酸化銅は成長した大きな粒子であることが電子顕微鏡観察によって確かめられた。X 線回折の結果, 両者に差異が認められず, 粒子の大きさにのみ差異が認められることから, つぎのように結論された。亜酸化銅の色の相違は粒子の大きさの差異によるものであり,微細粒子は黄色を,粗大粒子は赤色を呈し,相互に転換できることがわかった。各種の水溶液中での加熱の場合,黄色亜酸化銅は蒸留水を用いた場合にのみ赤色亜酸化銅へ転換した。塩化ナトリウムの中性またはアルカリ性水溶液を用いた場合には,亜酸化銅の溶解度が大きいにもかかわらず,赤色亜酸化銅への転換は困難であった。このことは亜酸化銅を溶解した水溶液の紫外吸収スペクトルの測定結果から推察される可溶性錯体の生成と関係があるように思われる。上述の結果に基づいて, 黄色亜酸化銅の水熱処理による赤色亜酸化銅の製造条件について検討し, 加熱温度が高いほど短時間に粒子成長が起こり,赤色亜酸化銅が得られることを明らかにした。