著者
加賀谷 勝史
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.3-10, 2012 (Released:2012-02-17)
参考文献数
38
被引用文献数
2 1

動物行動は,特定の外部感覚刺激に応答して開始するだけでなく,自発的にも開始する。このような自発的(随意的)な行動開始の神経機構はどのようなものだろうか。我々はアメリカザリガニにおいて,自発性歩行に動員される脳内ニューロンを多数同定した。とりわけ,自発的な歩行開始に先行すること1秒以上前にスパイク活動が増加するニューロンを発見した。これらのニューロンの活動は,脊椎動物の脳で記録される随意行動開始に先行する活動,すなわち準備活動に相当するものであると考えられる。また,歩行の継続中あるいは停止時に賦活されるニューロンを同定した。以上から,自発性歩行は,組織化された下行性信号によって開始,継続,停止が制御されることが判明した。さらに,これらの下行性信号がどのような神経回路機構で生成されるのかを明らかにするために,細胞内記録・染色法によって脳内神経細胞を調べた。その中で,準備活動ニューロンを同定することに成功し,準備活動が内発的興奮性によってではなく,逐次的な興奮性・抑制性シナプス入力によって形成されることが分かった。同定された多数の脳内ニューロンのシナプス活動,樹状突起投射部位を解析した結果から,自発性歩行制御に関わるシナプス賦活が前大脳内側部と後大脳とで構成される回帰性神経回路で起こるモデルを本稿で提案する。