著者
坂田 亮一 勝俣 学 押田 敏雄 島田 裕之 神田 宏
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.76-81, 2004-06-20 (Released:2011-06-08)
参考文献数
13

通常の豚肉を用いて, 高温と低pH処理によりPSE様状態を呈する肉を人為的に調製した。調製した豚肉試料がどの程度のPSE状態であるか判定するために, 試料から抽出した筋漿タンパク質の変性程度を透過率 (Transmission Value: TM値) で測定した。その保水性, ならびにソーセージを試作しクッキングロス, 物性などの項目について比較検討を行い, PSE様豚肉における保水性とクッキングロスの関係について調べた。また加熱後の各豚肉ソーセージ試料の色調を測定し, 生肉でのPSE状態との関連性を検討した。PSE処理時のpHの低下に伴いTM値が上昇し, 筋漿タンパク質の変性が顕著に進んだ。ろ紙加圧法による保水性の測定値 (M/T値) は試料のPSE状態が進むに伴い, その値が徐々に低下し, クッキングロスは増加した。用いた試料において, 保水性とクッキングロスの間に負の相関が認められた。また, PSE様肉の保水性とクッキングロスともに, その測定値は対照区より劣る値を示した。色調測定での Hunter 値において, PSE状態の進行とともに正常肉に比べてLおよびb値の上昇とa値の低下が明らかにみられ, L*, a*およびb*も同様の変動を示し, 肉眼的所見からも赤色に乏しく白けた色調を呈した。物性測定の結果では, PSE状態が進むにつれテクスチャーが低下する傾向がみられ, このようなソーセージは商品価値が低いものと判断された。
著者
勝俣 学
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2006-03-15

食肉中には、パントテン酸(PaA)、パンテテイン(PaSH)、コエンザイムA(CoA)など各種PaA誘導体が含有される。これらには、血中コレステロール(CH)やトリグリセリド(TG)の値を減少させるなど脂質低下作用のあることが知られている。しかし、いずれの化合物も、含有量が少ない、生理作用が弱い、不安定で容易に酸化される、分解されやすい、工業的生産に不向きである等の欠点があるので、機能性食品として応用するためには、それらの欠点を解決する必要がある。本研究では、PaA誘導体の中で、比較的安定で酸化されにくく、工業的生産が容易なパンテテイン-S-スルホン酸(PaSSO_3H)に注目した。 PaSSO_3Hの生理作用に関する研究は、これまでビフィズス菌の成長促進因子としての観点から進められてきた。例えば、Bifidobacterium bifidum N4株を用いたPaSSO_3Hの代謝経路に関する研究では、PaSSO_3Hは、PaA誘導体の中で脂質低下作用を示し、機能性食品として用いられているパンテチン(PaSS)と、PaAから4'-ホスホパンテテイン(P-PaSH)を経てCoAに至る一連の代謝経路の中で、P-PaSH以降CoAまで同様の経路で代謝される。もし動物の生体内においても、PaSSO_3Hが細菌と同様の経路で代謝されるならば、PaSSと同様に脂質代謝に効果を持つ可能性がある。しかし、今までにPaSSO_3Hおよびその塩が脂質代謝に影響を及ぼすという報告はない。 PaSSO_3Hは粘稠性が高く結晶化が困難なので、本研究では、そのカルシウム塩のパンテテイン-S-スルホン酸カルシウム(PaSSO_3Ca)を用い、脂質低下作用およびその作用機序について以下の検討を行った。第1章 マウス、ラット、ハムスターおよびウズラの血中脂質に及ぼすPaSSO_3Caの影響 PaSSO_3Caの各種動物に対する脂質低下作用を調べた結果、脂質低下作用に種差が存在し、血中CH低下作用はマウス、ハムスターおよびウズラにおいて、血中TG低下作用はマウス、ラットおよびハムスターにおいて認められた。このような種差が見られた理由としては、動物種による脂質およびリポタンパク代謝の違い、また、リノレン酸、ビタミンE誘導体あるいはセサミンに見られるような動物種による投与化合物への感受性の違いが考えられる。第2章 高CH飼料給与動物の脂質動態に及ぼすPaSSO_3Caの影響 高CH飼料で飼育した時の血中脂質に及ぼすPaSSO_3Caの影響を、マウス、ラット、ハムスター、ウズラおよびウサギを用いて検討した。 その結果、1%CH(0.5%コール酸ナトリウム(CA)含有)飼料で2週間飼育したマウスではCH低下作用を示さなかった。ハムスターでは、1%CH(0.2%CA含有)飼料での3週間飼育による血中CH上昇に対し、有意ではないが、低下傾向を示した。一方、1%CH(0.5%CA含有)飼料で2週間飼育したラットでは、1週間から2週間で有意(p<0.05)な血中CH低下作用を示した。他方、ウズラを0.5%CH(0.1%CA含有)飼料で飼育すると、4週間で血中CHは正常群の約6倍に上昇し、16週間目まで上昇した。この血中CH上昇に対し、PaSSO_3Caは観察期間中すべての週で有意(p<0.05)な低下作用を示した。さらに、ウサギを0.5%CH飼料で30日間飼育すると、血中CHは10日から30日まで上昇し、この上昇に対しPaSSO_3Caは21日目に有意(p<0.05)な低下作用を示した。第3章 実験的高CH・TG血症ラットに及ぼすPaSSO_3Caの影響 卵黄の2週間反復経口投与(卵黄:卵白=3:1、2mL/日)による高CH・TG血症、甲状腺ホルモン合成阻害剤であるPTU(6n-propyl-2-thiouracil)の2週間反復経口投与(1mmol/kg/日)による甲状腺機能低下時の高CH・TG血症、およびトライトン(界面活性剤、400mg/kg、静脈内単回投与)誘発高脂血症のモデルラットに対するPaSSO_3Caの脂質低下作用を検討した。 その結果、卵黄投与ラットでは無処置群ラットと比較し、血中CHおよびTGが上昇したが、PaSSO_3Caはこの無処置群ラットの両脂質の上昇を有意(p<0.05)に抑制した。PTU投与ラットでも、無処置群ラットより血中CHおよびTGが上昇し、PaSSO_3Caは、この両脂質の上昇を有意(p<0.05)に抑制した。また、トライトン投与によりラット血中CHおよびTGは、他のモデル同様上昇するが、PaSSO_3Caはこれに対しても有意(p<0.05)な上昇抑制効果を示した。第4章 実験的高TG血症および脂肪肝ラットに及ぼすPaSSO_3Caの影響 高TG血症および脂肪肝には、(1)血中TG分解酵素活性の低下による高TG血症モデル(アロキサン(AX)、イントラリポス(IL))、(2)外因性TG投与による高TG血症モデル(IL)、(3)脂肪組織からのFFA動員による高TG血症モデル(AX)、(4)脂肪の合成亢進による高TG血症モデル(フルクトース(FW)、AX)、(5)FFAの酸化障害性高TG血症・脂肪肝モデル(急性エタノール(ET)投与、慢性ET投与)、(6)VLDL合成障害による肝臓からのTGの血中への放出抑制による脂肪肝モデル(テトラサイクリン(TC)、オロチン酸(OA)、エチオニン(EN))、および(7)VLDL合成亢進による脂肪肝モデル(FW)などが知られている。そこで、それぞれのタイプの高TG血症および脂肪肝ラットを作成し、PaSSO_3Caの高TG血症および脂肪肝に対する効果について検討した。 その結果、AX、IL、FW、ETで誘発した高TG血症のラットにおける血中TG、およびET、TC、OA、ENで誘発した脂肪肝のラットにおける肝臓のTGに対して、PaSSO_3Caは有意(p<0.05)な低下作用を示すことを明らかにした。第5章 PaSSO_3Caの脂質低下作用機序の検討 第1節 高CH飼料給与ラットを用いたCH低下作用の機序 PaSSO_3Caの血中CH低下の作用機序について、1%CH(0.5%CA含有)飼料で2週間飼育したラットを用いて、PaSSO_3Caの、(1)CHの吸収、分布および胆汁中への排泄に及ぼす影響、(2)胆汁中への胆汁酸(BA)およびCHの排泄に及ぼす影響、(3)低比重リポタンパク(LDL)-CHの血中からの消失に及ぼす影響、(4)CHのふん中への排泄に及ぼす影響、および(5)肝臓における酢酸およびメバロン酸(MA)からのCH合成に及ぼす影響について、それぞれ検討した。 その結果、PaSSO_3Caは、(1)[^3H]-CH経口投与後の経時的な血中放射能レベル(48時間まで観察)から、CH吸収に影響しなかった。胆汁中への[^14C]-CH(静脈内投与)および[^3H]-CH(経口投与)由来の放射能の排泄量(CHあるいはBAを含む。48~50時間の2時間分)をそれぞれ高CH群の118%および120%に上昇させた。(2)高CH群に比較し、胆汁中へのBA排泄量を0~6時間で高CH群の118%に上昇し、CH排泄量に影響を与えなかった。(3)[^14C]-CHで標識したLDL-CHを多く含む血清を静脈内投与(3.7×10^6dpm/ラット)した後の、血中放射能([^14C]-CH)を経時的に測定したところ、血中からのCHの消失時間を0~30分で高CH群の約1/3に短縮した。(4)ふん中への[^14C]-CHおよび[^14C]-BAの排泄量を、高CH群の108%に上昇させた。(5)肝臓での[^14C]-酢酸および[^14C]-MAからの[^14C]-CH合成を、それぞれ高CH群の70%および68%に低下させた。 これらの結果から、PaSSO_3Caは腸管でのCHの吸収に影響を与えず、吸収されたCHのBAへの変換を促進し、BAの腸肝循環を阻害し、胆汁中およびふん中へのCHの排泄を早め、血中からのCH消失を促進することがわかった。一方、肝臓においても、PaSSO_3CaはMAからCHまでの合成経路を阻害することにより、肝臓中のCHを減少させることが判明した。 第2節 ラットの脂質動態に及ぼすPaSSO_3Caの作用 第1章において、市販ラット飼料で飼育したラット(正常群)に対し、PaSSO_3Caの2週間反復投与が血中CH値に影響を与えないことを明らかにした。この原因について、PaSSO_3Caの、(1)CHの吸収、分布および胆汁中への排泄に及ぼす影響、(2)胸管リンパからのCH吸収に及ぼす影響(摂食および絶食下で8時間まで観察)、(3)肝臓における酢酸からのCH合成に及ぼす影響について、それぞれ検討した。 その結果、PaSSO_3Caは、(1)[^3H]-CH経口投与後の経時的な血中放射能レベル(48時間まで観察)から、CH吸収を上昇させることが示された。胆汁中への[^14C]-CH(静脈内投与)および[^3H]-CH(経口投与)由来の放射能の排泄(CHあるいはBAを含む。48~50時間の2時間分)を、それぞれ正常群の117%および137%に上昇させた。胆汁中のBAおよびCHを測定したところ、BAは正常群の116%に上昇し、CH量に変化はなかった。(2)絶食下で胸管リンパ中へ分泌される累積CH量を、6および8時間で有意(p<0.05)に低下した。(3)肝臓で、[^14C]-酢酸からの[^14C]-CH合成を正常群の82%に低下した。 これらの結果から、ラットにおいてPaSSO_3Ca投与によりCHの消化管からの吸収が上昇し、これにより血中CHは正常値より一時的に上昇することが推察された。一方、肝臓において、CH生合成の抑制および胆汁中へのBAの排泄が増加することを明らかにした。また、血中ではCH消失が亢進して血中CHは減少し、正常値に戻ることを示した。このように、PaSSO_3Caは正常ラットの血中CHを低下させない機序を究明した。 第3節 ラットに対するPaSSO_3CaのTG低下作用の機序 第3章および第4章において、PaSSO_3Caは各種高TG血症または脂肪肝モデル動物の、血中および肝臓中のTG低下作用を示すことを、明らかにした。そこで、PaSSO_3Caの血中および肝臓中のTG低下作用の機序を究明するため、ラットを用いPaSSO_3Caの、(1)オリーブオイル(OO)吸収に及ぼす影響(OO投与後24時間まで観察)、(2)胸管リンパからのTG吸収に及ぼす影響(摂食および絶食下で8時間まで観察)、(3)絶食およびノルエピネフリン(NE)静脈内投与時の脂肪組織から血中への脂肪酸(FFA)遊離に及ぼす影響、(4)酢酸からのTG合成に及ぼす影響、(5)肝臓中のCoA量に及ぼす影響、(6)外因性TGの血中からの消失に及ぼす影響、(7)TG代謝関連酵素活性に及ぼす影響(1%CH飼料で飼育したラットおよびTC誘発脂肪肝ラット)、および(8)in vitroでのTG分解に及ぼす添加効果について、それぞれ検討した。 その結果、PaSSO_3Caは、(1)OO投与後の血中TG量を、12時間~24時間で有意(p<0.05)に低下させた。(2)絶食下で胸管リンパ中へ分泌される累積TG量を、4、6および8時間で有意(p<0.05)に低下させ、摂食下でその効果は消失した。(3)絶食およびNE投与により、上昇した血中FFAを有意(p<0.05)に低下させた。(4)[^14C]-酢酸からの[^14C]-TG合成を有意(p<0.05)に上昇させた。(5)肝臓中のCoA量を変化させなかった。(6)脂肪乳剤静注後の血中TGの消失を、対照群の60%に短縮させた。(7)高CH群に比較し、血中lipoprotein lipase(LPL)と肝性TG lipase(HTGL)の活性を上昇させた。TC処置群に比較し、血中LPLとHTGL活性を上昇させた。また、TC処置による肝臓中のTG上昇、血中TG低下を有意(p<0.05)に抑制した。(8)血中TG分解を亢進させ、LPL活性を上昇させた。 これら(6)、(7)および(8)の結果から、PaSSO_3Caによる血中TGの低下は、TGのFFAへの分解(異化)が原因であることが明らかとなった。さらに(3)の結果より、FFA動員の抑制もTG低下に影響を与えることを究明した。また、TC処置時の肝TG上昇、血中TG低下を有意に抑制したことで、PaSSO_3CaによるTGの肝臓からの放出促進が脂肪肝改善の作用機序として示唆された。 このように、脂質代謝の正常なマウス、ハムスター、ウズラに対しPaSSO_3Caは血中CHおよびTGの値を低下させる作用を有し、高CH飼料で飼育したラット、ウズラ、ウサギに対しても血中CH低下作用を示した。一方、PaSSO_3Caは卵黄、PTUおよびトライトン投与により作成した高脂血症ラットに対しても血中CHおよびTG低下作用を示し、AX、IL、FW、ET、TC、OAおよびENによって誘発される高TG血症と脂肪肝に対しても、TG低下作用を有することを見出した。さらに、PaSSO_3Caの持つ血中CH低下作用機序は、主に肝臓でのCHからBAへの変換の促進と、BAの腸肝循環の阻害によることを示した。また、血中TG低下作用機序は、TG分解系の酵素活性を上昇させることに起因することを究明した。
著者
坂田 亮一 勝俣 学 押田 敏雄 島田 裕之 神田 宏
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.76-81, 2004

通常の豚肉を用いて, 高温と低pH処理によりPSE様状態を呈する肉を人為的に調製した。調製した豚肉試料がどの程度のPSE状態であるか判定するために, 試料から抽出した筋漿タンパク質の変性程度を透過率 (Transmission Value: TM値) で測定した。その保水性, ならびにソーセージを試作しクッキングロス, 物性などの項目について比較検討を行い, PSE様豚肉における保水性とクッキングロスの関係について調べた。また加熱後の各豚肉ソーセージ試料の色調を測定し, 生肉でのPSE状態との関連性を検討した。PSE処理時のpHの低下に伴いTM値が上昇し, 筋漿タンパク質の変性が顕著に進んだ。ろ紙加圧法による保水性の測定値 (M/T値) は試料のPSE状態が進むに伴い, その値が徐々に低下し, クッキングロスは増加した。用いた試料において, 保水性とクッキングロスの間に負の相関が認められた。また, PSE様肉の保水性とクッキングロスともに, その測定値は対照区より劣る値を示した。色調測定での Hunter 値において, PSE状態の進行とともに正常肉に比べてLおよびb値の上昇とa値の低下が明らかにみられ, L<sup>*</sup>, a<sup>*</sup>およびb<sup>*</sup>も同様の変動を示し, 肉眼的所見からも赤色に乏しく白けた色調を呈した。物性測定の結果では, PSE状態が進むにつれテクスチャーが低下する傾向がみられ, このようなソーセージは商品価値が低いものと判断された。
著者
坂田 亮一 勝俣 学 押田 敏雄 島田 裕之 神田 宏
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 = The Japanese journal of swine science (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.76-81, 2004-06-20
参考文献数
13

通常の豚肉を用いて、高温と低pH処理によりPSE様状態を呈する肉を人為的に調整した。調整した豚肉試料がどの程度のPSE状態であるか判定するために、試料から抽出した筋漿タンパク質の変性程度を透過率(ransmission Value :M値)で測定した。その保水性、ならびにソーセージを試作しクッキングロス、物性などの項目について比較検討を行い、PSE様豚肉における保水性とクッキングロスの関係について調べた。また加熱後の各豚肉ソーセージ試料の色調を測定し、生肉でのPSE状態との関連性を検討した。PSE処理時のpHの低下に伴いM値が上昇し、筋漿タンパク質の変性が顕著に進んだ。ろ紙加圧法による保水性の測定値(M/値)は試料のPSE状態が進むに伴い、その値が徐々に低下し、クッキングロスは増加した。用いた試料において、保水性とクッキングロスの間に負の相関が認められた。また、PSE様肉の保水性とクッキングロスとともに、その測定値は対照区より劣る値を示した。色調測定でのHuner値において、PSE状態の進行とともに正常肉に比べてLおよびb値の上昇とa値の低下が明らかにみられ、L(*)、a(*)およびb(*)も同様の変動を示し、肉眼的所見からも赤色にと乏しく白けた色調を呈した。物性測定の結果では、PSE状態が進むにつれテクスチャーが低下する傾向がみられ、このようなソーセージは商品価値が低いものと判断された。