著者
勝川 千尋 原田 七寛 津上 久弥 牧野 正直
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
CHEMOTHERAPY (ISSN:00093165)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.1160-1166, 1993-11-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
10

皮膚科領域の各種感染症治療における, ホウ酸利用の可能性について検討を行った。この目的のため, 標準菌株および臨床患者から分離された病原微生物に対するホウ酸の抗菌力の測定を行い, 以下の成績を得た。1.検査したすべての細菌および真菌が, ホウ酸1%(wt/vol) の濃度で発育が阻止され, 高濃度のホウ酸に耐性の菌は認められなかった。2.ホウ酸の各種微生物に対する発育阻止濃度は0.125%-1%の範囲に分布し, 菌種毎に以下のような特徴がみられた。同一菌種間は似た発育阻止濃度値を示したが, 同じ属であっても菌種が異なると, 発育阻止濃度も異なった値を示した。総じてグラム陽性菌に対する発育阻止濃度が高く, グラム陰性菌に対しては低かった。しかし, ブドウ球菌属中のStaphyloooccus aureusだけは異なり, Staphylococcus epidermidis やStaphylococcus hominis などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌に対する発育阻止濃度が高いのに対して, S. aureusに対しては低かった。3.S. aureusは近年, 多剤耐性化が問題となっているが, ホウ酸の発育阻止濃度はmethicillin-resistant S. aureus (MRSA) およびmethicillin-sensitive S. aureus (MSSA) の間に差は認められなかった。また, 他の菌種もホウ酸に対して耐性化の傾向は認められなかった。今回検査したすべての細菌および真菌に対する発育阻止濃度が1%以下であることから, 2-3%の低濃度での安全性の高い利用方法を考案することにより, ホウ酸を再び活用できる可能性があると考えられた。特にMRSAに対して耐性化の傾向の認められない点はMRSA感染予防の1つの打開策となり得ることを示唆している。