著者
勾坂 馨
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

血痕を抗Aまたは抗Mで感染後, 種々の温度で熱処理した後, この血痕に感作抗体と対応する血球(A型またはM型)を加え, 二重結合反応を起こさせたところ, 抗M, 抗Aとも140°C・20分処理では抗体活性に変化がなく, 150°C・30分処理では抗体活性がやや低下し, 160°C・20分処理により抗体活性はほとんど失活した. 一方, 熱処理した感作血痕を熱解離し, 解離液の凝集素活性を調べたところ加熱温度上昇ともに解離液の凝集素活性は低下し, 140°C・10分の熱処理によって解離液の凝集活性は0となった. これらの検査でIgGとIgMとの間に著差は認められなかった. 感作血痕を種々の濃度のホルマリン(ホ)またはメルカプトエタノール(メ)で処理した後, 前出の二法により抗体活性を検討した. IgM抗A抗体感作血痕をホで処理した場合濃度25%まで抗体活性の維持が認められ, メ処理では2%まで活性維持が認められた. また, ホまたはメ処理後の血痕を熱解離し, 解離液の凝集素活性を検討すると, 二重結合法と同様な成績が得られた. 一方, ウサギIgG抗M抗体感作血痕では, IgGのホに対する耐性はIgMと同様であるが, メに対しては25%処理まで抗体活性を維持し, IgMと著しい差異を認めた. 一般に免疫グロブリンは高熱やある種の薬物の処理によって活性を失うことが知られている. 熱抵抗性に関しては, 本実験では70°Cの加熱によってIgG抗体活性は失活したが, 抗体抗原複合物の状態のIgG・IgMとも150°C・20分まで抗体活性を維持するのが認められた. この事実は抗体は抗原と結合することによって構造上の変化が生じ, それが抗体の熱抵抗性を発揮させるものと推測される. 薬物処理では, とくにメ処理した場合, 抗原結合状態のIgG・IgMはfreeな状態の抗体に比較すると著しく高い薬物耐性を呈した. これも熱抵抗性の場合と同様に, 抗原と結合した抗体に構造上の変化が生じたものと推測される.