著者
北川 久美子 島野 光司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.121-131, 2010-05-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
45
被引用文献数
3

乾性放棄水田の埋土種子による水辺植生再生の可能性をさぐり、埋土種子を用いた水辺植生の再生や保全する方法を検討するため、「放棄水田」、放棄水田から水田にした前後の「復田前」と「復田」、湿性放棄水田から開墾した「池」において植生調査を行った。また復田した場所で確認された種の由来を検討するため、「復田前」から採取した土壌の埋土種子調査を行った。乾性放棄水田から水田にした「復田」とその土壌を用いた埋土種子調査から、「復田前」には見られなかった絶滅危惧種II類のミズマツバが発生した。同時に、水辺植生の構成種であるアゼトウガラシやタマガヤツリなどがみられた。また、湿性放棄水田から「池」にした地点では、絶滅危惧種IA類であるアズミノヘラオモダカ、絶滅危惧種II類であるサンショウモ、絶滅危惧種I類であるイチョウウキゴケがみられた。こうした事から、放棄水田から耕作し、水を入れることによって、放棄された当時の水辺植生を埋土種子から再生し、保全できる可能性があることがわかった。また埋土種子調査では水位によって発生した種が異なったため、再生するには水位コントロールも重要な要素であると考えられる。放棄水田の埋土種子集団が、水辺植生再生のために貴重であると考えられる。