著者
北田 亮
出版者
生理学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

他者に理解しやす顔表情の表出は円滑なコミュニケーションに重要な役割を果たす。しかし視覚障害者が表出した顔表情は、晴眼者の表情に比べて認識することが難しいとされている。晴眼者は顔を触るだけで個人や表情を識別できるので、触覚を用いた顔表情の学習によって、より認識しやすい顔表情の表出ができる可能性がある。しかし触覚による顔の認識を支える神経基盤についてはよく分かっていない。例えば視覚による顔の認識には、後頭葉・側頭葉の特異的なシステムの役割が重要であるが、このシステムが多感覚的な顔認識に関わるかどうかはよく分かっていない。さらに視覚障害者で顔認識に関わるこのシステムが発達し、維持されているかどうかも不明である。本研究は顔認知に関わる神経基盤の多感覚性と可塑性について明らかにしようとするものである。平成21年度は顔認知に関する神経基盤の多感覚性を明らかにした(Kitada, et al., 2010 NeuroImage)。そこで平成22年度は顔認知に関わる神経基盤の可塑性について検討した。視覚障害者を対象に心理物理学実験を行い、視覚障害者でも識別できることを明らかにした。さらに機能的磁場共鳴法(fMRI)を用いて、顔表情の識別に関わる脳活動を先天的な視覚障害者(先天盲)と晴眼者で比較した。その結果、晴眼者の視覚と触覚による顔表情の識別に関わる大脳皮質領域(紡錘状回・中側頭回・下側前頭前野)は、先天盲による顔表情の識別でも活動することを明らかにした。この結果は視覚経験に依存せず、顔表情の認識に関わる神経基盤が発達および維持されることを示している。