著者
田中 悟志
出版者
生理学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

頭蓋の外に置いた電極から電気刺激を行う経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は、安全にヒトの脳活動を制御する方法として、神経障害に伴う脳機能低下の回復への応用に期待が高まりつつある。本研究では、下肢運動機能に障害を持つ皮質下梗塞患者に対して、下肢筋力トレーニング中における損傷半球側の運動野へtDCSを実施し、下肢運動機能への促進効果を検討した。その結果、8名中7名の下肢筋力を促進することができた(Tanaka et al., 2011a)。また機能的磁気共鳴画像実験により、大脳皮質運動野へ直流刺激を与えると、刺激された大脳皮質に加えて皮質下の脳活動も上昇するという予備的な知見を得た。
著者
齋藤 茂
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

生息環境に応じた温度感覚の進化な変化とその分子メカニズムを解明するために、異なる温度環境に適応した両生類(カエル)を対象にした研究を行う。幼生(オタマジャクシ)が冷涼な環境で生育する種、温暖な環境で生育する種、また、高い温度でも生育できる種を用いた比較解析を行う。生息地において温度の経時的な測定を行い、各種の幼生が自然環境下で経験する温度を調べる。また、実験室にて幼生の温度応答行動を観察し、温度耐性や温度選択性に種間で差が生じているかを検討する。次に、温度感覚のセンサー分子の機能特性を比較し、温度感覚の進化的変化が環境適応に果たした役割およびその分子メカニズムを解明することを目指す。
著者
則武 厚 揚妻 正和
出版者
生理学研究所
雑誌
学術変革領域研究(B)
巻号頁・発行日
2022-05-20

則武らは、高い社会性を持つ非ヒト霊長類マカクザルを用いた実験により、前頭前野において、嫉妬の基盤となる自己と他者の報酬情報が独立に表現される情報処理様式を発見した。これを発展させ、自他情報の比較および嫉妬情動表象へと導く演算を担う神経回路と情報処理過程を明らかにすれば、嫉妬生成の仕組みの理解に大きな一歩となる。そこで本課題では、自他比較に焦点を当て、嫉妬神経機能モジュール解明とモデルの導出・実証を推進する。
著者
知見 聡美
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

大脳基底核と小脳はどちらも、随意運動を行う上で非常に重要な役割を果たしており、変調を来すことによって運動が著しく障害されることが広く知られている。運動の指令は、大脳皮質の一次運動野、補足運動野、運動前野などの運動関連領野から脊髄に送られるが、大脳基底核と小脳もこれらの皮質領域から運動情報の入力を受け、情報処理を行ったあと、視床を介して大脳皮質に情報を戻すループ回路を形成することにより、これらの大脳皮質領域の活動調節に寄与している。本研究は、大脳基底核から視床への情報伝達と、小脳から視床への情報伝達が、随意運動を制御する上で果たす役割について明らかにすることを目指す。
著者
秋元 望 古江 秀昌
出版者
生理学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、慢性疼痛の一つである神経障害性疼痛の発現時にみられる炎症性サイトカインが内臓、特に下部尿路の自律神経制御に与える影響について調べることを目的として行われた。炎症性サイトカインを脊髄に灌流投与を行ったところ、頻尿を誘発するサイトカインと、排尿間隔を広げるものがあることがわかった。また、下部尿路から脊髄への伝達では膀胱と尿道のそれぞれから別々の神経を介して情報が伝達されることがわかった。これらの結果から、下部尿路から脊髄へ入力された圧変化や知覚の情報は複数の種類の細胞に伝達され、これらの細胞にサイトカインが作用し、排尿に影響を与えることがこれまでの研究によって示唆された。
著者
金桶 吉起 乾 幸二 渡辺 昌子
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、仮現運動知覚および第2次運動知覚について、生理学的研究を脳磁図および機能的磁気共鳴画像にて行った。ランダムドットパターンを用いた仮現運動刺激では、ちらつきと運動の知覚を外的刺激を変化させずに与えることができる。よって刺激によらず運動知覚に伴う内的な脳機能の違いを検討することができた。結果は、運動知覚が惹起されるときはちらつきが惹起されるときと比して100ms前後から高い神経活動を示した。これは両者の知覚が視覚系の早い段階から競合しながら形成されていくことを示唆する。また、第2次運動知覚に関わる脳部位を機能的磁気共鳴画像を用いて検討した。第2次運動とは、明るさの時間変化を検出して運動を知覚する第1次運動知覚に対する概念で、物体の模様やコントラストなどの全般的な要素の位置の変化を検出することによって初めて知覚される。これまでにも同様の試みは多くなされてきたが、第2次運動知覚のみに特異的に関わる部位の同定はできておらず、臨床例の研究との結果に乖離があった。我々は、第2次運動知覚をもたらす視覚刺激を2003年に新たに創作した。この刺激は、第1次運動の影響を理論的に皆無にし、また第2次運動知覚の中でももっともその特徴を有するという性質を持つ。この刺激を用いて、脳磁図にて初めて第1次と第2次運動に対する反応の違いを明らかにした。今回は、この刺激を機能的磁気共鳴画像実験に応用した。視認性の影響を調べるために、第2次運動より見にくい第1次運動と、第2次運動、そして第2次運動と同程度の見易さの第1次運動、さらに第1次と第2次運動の両者の性質を持つ混合運動の刺激を用いて、それぞれに反応する脳部位を検索した。その結果、第2次運動に特異的に反応する部位は、上側頭溝後部にあった。この部位に障害を起こした臨床例が、第2次運動に特異的に知覚障害を起こしたことが報告されており、その結果とみごとに一致する。また、同部位は、biological motionや表情の変化にも特異的に反応することが知られており、高次の運動知覚に広く関わることが示された。
著者
浦川 智和
出版者
生理学研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

我々の脳には絶え間なく曖昧な視覚情報が入力されている。この曖昧な情報を先行する非曖昧刺激情報を手がかりとして補完し安定した知覚を形成することは、脳内視覚情報処理に課せられた重要な課題である。しかしながら、この曖昧情報の補完メカニズムについての研究は少なく、とりわけこの脳内視覚情報処理の初期段階での動態については明確になっていない。視覚ミスマッチ反応振幅は刺激提示後150ミリ秒付近に後頭側頭領域において観察される脳反応で、先行刺激と入力されてくる刺激情報間の逸脱度の大きさがその反応振幅の大きさとして反映されている。したがって曖昧刺激情報知覚が先行する非曖昧刺激知覚になる場合(先行刺激により曖昧刺激情報が補完される場合)はそうでない場合に比べて曖昧刺激情報の先行刺激情報に対する逸脱度は小さくなると考えられる。このことから、曖昧刺激に対するミスマッチ反応振幅は、曖昧刺激が先行する非曖昧刺激により補完される場合はそうでない場合に比べて小さくなると予想した。このことを検討するために本課題では曖昧図形としてnecker cube図形、非曖昧図形としてcube図形を用い、刺激提示には視覚ミスマッチ反応を誘発させるオドボール課題を用いた。脳活動は、時間分解能にすぐれかつ空間的に限局した活動が計測可能な脳磁図で計測した。被験者は、necker cube提示後200ミリ秒後に提示されるcue刺激が提示された時にnecker cubeが左向きか右向きかを判断した。実験の結果、予想とは逆で曖昧刺激知覚が非曖昧刺激知覚になりやすい被験者ほど、曖昧刺激に対するミスマッチ反応は大きくなった。現在は得られた脳活動データについて多信号源解析法を用いることでより詳細に検討している。
著者
山肩 葉子
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

Ca^<2+>/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)は、中枢神経系に豊富に存在し、様々な蛋白質をリン酸化することにより、その蛋白質の機能を修飾するプロテインキナーゼとして、神経活動の制御やシナプス可塑性に深く関わり、学習・記憶を始めとする高次脳機能にも重要な働きをすると考えられている。本申請者は、CaMKIIα(前脳におけるCaMKIIの主要なサブユニット)の持つ3つの機能、(1)他の蛋白質をリン酸化するプロテインキナーゼとしての機能、(2)Ca2+結合蛋白であるカルモジュリンを結合する機能、(3)CaMKIIサブユニット同士が結合して、あるいは他の蛋白質と結合して構造蛋白として働く機能、のうち(1)のプロテインキナーゼ活性のみを欠損させた特異性の高い「機能的ノックアウトマウス」をノックインの手法を用いて作成した。このマウス脳では、CaMKIIαのプロテインキナーゼ活性のみが選択的に消失するが、蛋白としての発現は維持されており、シナプス可塑性との関連が示唆されるmRNAの樹状突起への局在も保たれていた。電気生理学的、形態学的解析によって、海馬におけるシナプス可塑性の異常が観察され、また、それに対応するように、海馬依存性の学習行動にも異常が生じていた。これらのことから、CaMKIIαのプロテインキナーゼとしての活性自体が、正常な海馬機能の維持に不可欠であることが明らかとなった。今後このマウスは、これらの機能維持に関わるリン酸化蛋白基質の検索・特定に大変有用であると考えられる。
著者
岡崎 俊太郎
出版者
生理学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は,発声と聴覚(音声の聴取)の相互作用とその神経基盤に着目し,これまで吃音者の流暢性を増大させるために用いられてきた手法の作用機序を解明することである.特に発話が聴覚フィードバックに合わせて実行されてしまう「引き込み現象」について非吃音者および吃音者においてその特性を網羅的に調べた. 13名の非吃音者および吃音者5名において自声および他声を聴取したときの発話の音響特性を分析した.その結果,発話の途中における引き込み現象は非吃音者および吃音者双方に観測され,この現象によって,斉唱や遅延聴覚フィードバックが,吃音者の非流暢性低下させるメカニズムを説明できることが分かった.また発話の開始時においては非吃音者では引き込み現象が起こらず,能動的に発話を開始していたが,吃音者では発話の開始自体を聴覚フィードバックに対する引き込みに依存する傾向が見られた.この結果から,聴覚情報として自分の声が必要な遅延聴覚フィードバックよりも斉唱のほうが吃音者の非流暢性低減に高い効果を示す理由が説明できる.本研究の結果は,今後の吃音に対する言語聴覚療法に対して有用な情報を提供し,これまで健常者だけでは不明瞭であった発話制御機構の神経基盤解明につながるものである.
著者
北田 亮
出版者
生理学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

他者に理解しやす顔表情の表出は円滑なコミュニケーションに重要な役割を果たす。しかし視覚障害者が表出した顔表情は、晴眼者の表情に比べて認識することが難しいとされている。晴眼者は顔を触るだけで個人や表情を識別できるので、触覚を用いた顔表情の学習によって、より認識しやすい顔表情の表出ができる可能性がある。しかし触覚による顔の認識を支える神経基盤についてはよく分かっていない。例えば視覚による顔の認識には、後頭葉・側頭葉の特異的なシステムの役割が重要であるが、このシステムが多感覚的な顔認識に関わるかどうかはよく分かっていない。さらに視覚障害者で顔認識に関わるこのシステムが発達し、維持されているかどうかも不明である。本研究は顔認知に関わる神経基盤の多感覚性と可塑性について明らかにしようとするものである。平成21年度は顔認知に関する神経基盤の多感覚性を明らかにした(Kitada, et al., 2010 NeuroImage)。そこで平成22年度は顔認知に関わる神経基盤の可塑性について検討した。視覚障害者を対象に心理物理学実験を行い、視覚障害者でも識別できることを明らかにした。さらに機能的磁場共鳴法(fMRI)を用いて、顔表情の識別に関わる脳活動を先天的な視覚障害者(先天盲)と晴眼者で比較した。その結果、晴眼者の視覚と触覚による顔表情の識別に関わる大脳皮質領域(紡錘状回・中側頭回・下側前頭前野)は、先天盲による顔表情の識別でも活動することを明らかにした。この結果は視覚経験に依存せず、顔表情の認識に関わる神経基盤が発達および維持されることを示している。
著者
柿木 隆介
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

種々の非侵襲的計測法を用いてヒトの脳内痛覚認知機構を明らかにすること、及び、基礎的研究によって得られた知見を元にして除痛治療を行う事を主要研究目的として、研究を行った。健常者を対象とした研究では、「こころの痛み」がなぜ起こるのか、鋭い痛みと鈍い痛みに対する脳反応の相違、などについて明らかにすることができた。臨床研究では、治療困難な痛みを持つ患者さんに対する脳外科的治療法の進歩に寄与する事ができた。
著者
川口 泰雄
出版者
生理学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

前頭皮質における遅延活動や、線条体でのTD誤差計算に使われる情報を送る可能性がある錐体細胞活動解析とその局所回路モデリングを共同研究で進めた。前頭皮質の緩徐振動は睡眠時やある種の麻酔下でも生じることが知られおり、行動中に一過性に変化したシナプス結合の固定化に関与することが提唱されている。この緩徐振動下での、前頭皮質から線条体へ投射する錐体細胞の発火時系列を解析することは、基底核が時期依存的に特異的な情報を受け取る可能性の検証に役立つと考えた。これまでに前頭皮質第5層線条体投射細胞を逆行性応答で同定して、緩徐振動中の発火時期を解析した。さらに、前頭皮質第5層の視床入力が多いサブレイヤー(5a層)と、少ないサブレイヤー(5b層)に分けて解析を進めた。サブレイヤーの同定には、小胞性グルタミン酸トランスポーター2型の蛍光免疫組織化学を用いた。その結果、線条体へ投射するサブタイプ間で発火順位が異なるだけでなく同じサブタイプであっても、5a層と5b層で発火時系列が異なっていることが分かった。皮質線条体投射時間差仮説(CSTD仮説)では、(1) 基底核内の直接路が次の行動価値を、間接路が現在の行動価値を表現することと、(2) 直接路、間接路がそれぞれ、黒質ドーパミン細胞の活動を亢進、抑圧することが、重要な仮定である。実験的に、直接路が報酬学習を、間接路が忌避学習を促進することが明らかにされている。このモデルを使って、報酬逆転学習と罰回避学習の時間経過をシミュレーションできることが分かった。
著者
箕越 靖彦 岡本 士毅 志内 哲也
出版者
生理学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

摂食行動の発現・調節機構を理解するためには、摂食に関わる神経回路網を明らかにするだけでなく、生体のエネルギーレベルを脳がどのように感受し、その情報を神経活動および摂食行動にどう変換するかを解明する必要がある。我々は、本研究において、室傍核CRHニューロンのAMPKが、絶食後の高炭水化物食と高脂肪食の食物選択行動を調節することをマウスを用いて見出した。室傍核CRHニューロンのAMPKが活性化することは、高炭水化物食の選択行動を引き起こす必要かつ十分であった。この実験結果は、生理学的、病態生理学的な食物選択行動の調節に室傍核CRHニューロンのAMPKが関与することを示す重要な発見である。
著者
定藤 規弘 岡沢 秀彦 小坂 浩隆 飯高 哲也 板倉 昭二 小枝 達也
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

「向社会行動は、自他相同性を出発点として発達し、広義の心の理論を中心とした認知的社会能力を基盤として、共感による情動変化ならびに、社会的報酬により誘導される」との仮説のもと、他者行為を自己の運動表象に写像することにより他者行為理解に至るという直接照合仮説を証明し、2個体同時計測fMRIシステムを用いて間主観性の神経基盤を明らかにした。自己認知と自己意識情動の神経基盤並びに自閉症群での変異を描出したうえで、向社会行動が他者からの承認という社会報酬によって動機づけられる一方、援助行動に起因する満足感(温情効果)共感を介して援助行動の動因として働きうることを機能的MRI実験により示した。
著者
重本 隆一 篠原 良章
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

(1)方法の確立本研究ではまず、同側の神経線維の作るシナプスのみを調べるために、腹側海馬交連(VHC)をあらかじめ切断したマウスを作製した。このような動物から用意されたCA1領野のスライスから電気生理学的記録を行うとともに、シナプス蛋白質を精製しNMDA受容体の反応やサブユニットの定量を行った。また同様の動物から電子顕微鏡用の超薄切片を作成し定量的金標識法により個々のシナプスでのNMDA受容体の定量を行った。(2)グルタミン酸受容体の左右非対称性我々は既にNMDA受容体サブユニットNR2Bの左右のシナプスにおける局在の違いについて、postembedding法で解析し、錐体細胞のシナプス特異的に非対称性が存在し、介在神経細胞のシナプスは対称的であることを明らかにしていた(Wu et al., J Neurosci., 2005)。本研究ではシナプス全体としての左右差を明らかにするために、まずはシナプスに局在する蛋白質のうち量的な非対称性があるものを検索した結果、AMPA型グルタミン酸受容体GluR1サブユニットにNR2Bとは反対方向の左右非対称性がある事を定量的なWestern blotで明らかにした(Shinohara et al., PNAS, 2008)。その他のグルタミン酸受容体サブユニットには左右非対称性は認められなかった。(3)個々のシナプスにおけるNR2BとGluR1密度の逆相関当部門では、定量的な免疫電子顕微鏡法として凍結割断レプリカ免疫標識法の開発を進めている。すでにAMPA受容体については1チャネルを1つの金粒子で検出できる事を示しており(Tanaka et al., J Neurosci., 2005; Masugi-Tokita et al., J Neurosci., 2007)、NMDA受容体についても定量的な解析を進めた結果、NR2BとGluR1ではシナプスにおける密度に明確な逆相関が存在する事を明らかにした(Shinohara et al., PNAS, 2008)。(4)シナプス形態の左右非対称性また、我々は錐体細胞がシナプスを形成するスパインの構造自体に対応するシナプス間で大きな左右差が存在することを発見した(Shinohara et al., PNAS, 2008)。右側より入力を受けるシナプスの方が左側より入力を受けるシナプスよりも大きなスパインとシナプス面積を持っており、perforated synapseやmushroom型スパインの頻度が有意に高い。(5)その他のシナプス蛋白質の総量の左右非対称性NR2BとGluR1以外で、CA1によく発現しているイオノトロピック型グルタミン酸受容体、すなわちNR1, NR2A, GluR2, GluR3については、シナプス密度に左右非対称性は存在しないものの、これらの量はシナプス面積に比例していることが明らかになり、右側より入力を受けるシナプスの方が面積が大きい事を反映して、総量としてはこれらのシナプスでより多く発現していることが明らかになった。これはほとんどのPSD蛋白質にシナプスに含まれる総量としての非対称性が存在する事を示唆している。同様の理由により、NR2Bに関しては総量としての左右非対称性は打ち消されていることが明らかになった。逆にGluR1の非対称性は強調されており総量で2倍以上の差があった。(6)シナプス左右非対称性の生理的意義上記のようなグルタミン酸受容体やシナプス形態の左右非対称性の生理的意義を調べるためにマウス脳を左右で分断し、右の海馬を主に使うマウスと左の海馬を主に使うマウスの間で空間学習能を調べたところ、右は正常と差がなかったが左では障害が認められた。この結果はマウスでもヒトと同じように空間学習機能は右脳優位であることを示している。これは、右海馬シナプスに長期増強現象の結果増大するGluR1が密度が高いことと一致する結果である。
著者
鍋倉 淳一 住本 英樹 渡部 美穂 江藤 圭 金 善光
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

中枢神経における長期シナプス再編とその制御機構について生体イメージングを主な手法として検討をおこなった結果、障害神経細胞において、ミクログリアは直接の接触により、過剰興奮による細胞障害死を抑制していること。幼若期においてミクログリアは直接接触によりシナプス形成に寄与していることが判明した。慢性疼痛モデル動物を用いて検討した結果、大脳皮質においては長期固定シナプスと可変シナプスが存在し、痛覚入力持続などの環境が変化する場合、可変シナプスがより高率に再編されることが判明した。グリア細胞は発達期や脳障害後の回復期など脳機能が大きく変化する時期の神経回路の変化に重要な役割を持っていることが判明した。