著者
半澤 直人 玉手 英利 中内 祐二
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ウケクチウグイは、分布が南東北の日本海に流入河川に局限され、生息密度が低いために生態や行動などが不明の絶滅危惧種である。本研究では、ウケクチウグイと比較対象のウグイが生息する山形県最上川水系と28年前に同種を調べた福島県阿賀野川水系を調査地として、ウケクチウグイの生息調査、飼育実験、およびDNA多型に基づく集団解析により、生態や集団構造を推定して絶滅の危険性を判定し、保全の方策を検討した。漁協、国交省河川事務所などの協力によりウケクチウグイの調査を進めた結果、最上川下流、阿賀野川上流ではかなりの個体数を確認したが、最上川上流ではほとんど確認できなかった。特に、唯一ウケクチウグイの産卵が確認されている最上川上流の産卵場では、平成18、19年春は前の冬が異常な暖冬だったせいか、産卵が確認できなかった。野外や飼育下での観察により、ウケクチウグイは魚食性が強いことが確認され、生息密度が低いのはこの食性に起因していると推察された。ミトコンドリアDNA解析では、最上川水系と阿賀野川水系のウケクチウグイ集団は明らかに遺伝的に分化し、全てのウケクチウグイ集団でウグイ集団より遺伝的多様性が著しく低かった。マイクロサテライト解析でもウケクチウグイ集団の遺伝的多様性は著しく低かった。2つの異なるDNAマーカーにより、最上川下流で始めてウケクチウグイとウグイの交雑個体が発見された。以上より、両水系のウケクチウグイ集団の個体数は激減して近親交配が進み、一部では種間交雑も生じて個体の適応度が低下し、絶滅の危険性がより高まっていると推察された。今後は、両水系のウケクチウグイ集団をそれぞれ別な保全単位として、産卵場や生息場所の保全対策を緊急に進めるべきである。