著者
玉手 英利 廣田 忠雄 永田 純子 永田 純子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本列島に生息するニホンジカは遺伝的には、九州、四国、本州西部に分布する南日本グループと、本州東部と北海道に分布する北日本グループに大きく分かれる。2 グループに分かれた原因を解明するために、ミトコンドリアDNA 調節領域の反復配列の変化を調べた。その結果、南日本のシカは九州西部地域で、北日本のシカは近畿地域で、それぞれ最も遺伝的多様性が高く、これらの地域から分布を拡大した可能性が明らかになった。
著者
奥田 圭 藤間 理央 根岸 優希 ヒントン トーマス G. スマイサー ティモシー J. 玉手 英利 兼子 伸吾
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.137-144, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
27

2011 年の東北地方太平洋沖地震は、福島県の一部地域における人間活動を大きく変えた。福島第一原子力発電所の津波被害やその後に生じた放射能汚染は、結果的に放棄耕作地や住民の避難に伴う空き家を増加させ、避難区域内における家畜の逸出を招き、野生の哺乳動物の個体群も拡大させた。本研究では、福島県におけるニホンイノシシと逸出したブタとの交雑の可能性を検証した。2014 年から2016 年の間に福島県内の個体群から集められた75 頭のニホンイノシシのミトコンドリアDNA 配列を分析した結果、71 個体からはニホンイノシシ固有の既知の配列が得られたが、それらから著しく分化したブタに該当する配列が4 個体から得られた。この結果は、野生化したブタからニホンイノシシ個体群への遺伝子汚染を示唆している。また、今回の知見は、当該地域における核DNA マーカーを用いた詳細な遺伝解析とモニタリングに基づく個体群管理の必要性を示唆している。
著者
中川 優梨花 飯野 由梨 斉藤 真一 小林 万里 玉手 英利
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

ゴマフアザラシ (Phoca largha)の配偶システムは,一夫一妻型であるとされている.しかし,配偶ペアがどの程度安定して維持されるのか(pair-bond),ペア外繁殖がどの程度起こるのか (mating fidelity)など,配偶行動と実際の繁殖成功度の関連については,観察・遺伝データ共に十分な知見が得られてはいない.そのため本研究では,長期個体観察が可能である飼育集団を対象とし,主に遺伝学的手法を用いて繁殖履歴の調査を行った.また,副次的な課題として飼育個体・集団の遺伝的多様度を測定し,野生集団との比較も行った. 研究に用いた個体は,鶴岡市立加茂水族館と城崎マリンワールドの飼育個体 (母獣・成熟メス計 5個体,父獣候補 6個体,仔 16個体 )である.比較を行う野生個体は,計 30個体 (礼文,羅臼,納沙布各 10個体 )である.体毛 (産毛を含む )・組織から DNAを抽出し,近縁種由来 microsatelliteマーカー5座位 (Han et al., 2010),種特異的 3座位 (小林,2011)を用いて遺伝子型を決定した.得られた遺伝子型から飼育個体の血縁判定を行い,個体の繁殖成功を推定,mating fidelityの評価を行った.その後,ヘテロ接合度・血縁度・近交係数の算出を行い,遺伝的多様性の評価を行った. その結果,特定の個体が繁殖を独占したこと,配偶ペア間で pair-bondが維持されていた可能性が示された.鰭脚類は,集団間で行動に差異が生じている種も少なくない.また,成熟オスは互いに威嚇しあい,少数が繁殖に有利な機会を得るとされる.そのため,成熟個体が同所飼育された場合には優位劣位の関係が生じ,特定の個体が繁殖に関して有利となった可能性が考えられる.しかし,メスは優位オスを必ずしも配偶相手に選ばない可能性も示唆されている (Flatz et al., 2012).今後,さらなる観察データ等の蓄積が必要と考えている.
著者
鵜野-小野寺 レイナ 山田 孝樹 大井 徹 玉手 英利
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.61-69, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
33

絶滅が危惧される四国のツキノワグマの繁殖状況を把握するため、2005年から2017年までに捕獲された13頭の血縁解析を行った。19種類のマイクロサテライト遺伝子座を用いて親子判定を行った結果、4組の母子ペア、5組の父子ペアが確認された。繁殖が確認された個体はメス4頭、オス2頭で、少数のオスの繁殖への参加が確認された。血縁解析の結果から、繁殖オスは同胞兄弟である可能性が高いと考えられる。アリル多様度は他の地域個体群よりも低い傾向がある一方で、ヘテロ接合度の観察値が期待値よりも有意に高いことから、繁殖個体数が極めて少ない可能性が考えられる。血縁解析の結果に基づきCreel and Rosenblattの方法で算出した推定個体数は約16-24頭となった。
著者
佐藤 真 中村 一寛 玉手 英利 門脇 正史 遠藤 好和 高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.131-137, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2

山形県のニホンジカ地域個体群は20世紀前半に一時絶滅したと考えられているが,2009年以降,県内でニホンジカが再び目撃されるようになった.山形県で散発的に出没するニホンジカの出自を明らかにする目的で,県内の村山市,鶴岡市,小国町で交通事故死したニホンジカ4個体のミトコンドリアDNA調節領域の遺伝子分析を行った.その結果,1個体の遺伝子型(ハプロタイプ)が北上山地の地域個体群でみられる遺伝子型と一致した.一方,他の3個体の遺伝子型は,北関東以西の地域個体群で報告された遺伝子型と系統的に近縁であることがわかった.以上から,山形県のニホンジカは,少なくとも南北2つの地域から,別々に進出している可能性が示された.
著者
大西 尚樹 玉手 英利 岡 輝樹 石橋 靖幸 鵜野 レイナ
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本のツキノワグマはアジア大陸から日本に渡来してきた後に、3つの遺伝グループに分岐し、各地域で遺伝的な分化が進んでいることが示唆された。こうした遺伝構造は、近年の大量出没においては一時的に崩れるものの、すぐに回復し維持されることが明らかになり、各地域の遺伝的なまとまりを保護管理ユニットとして適応出来ると考えられた。九州では1987年に捕獲された個体が本州由来であることが明らかになり、1957年以降捕獲がないことから絶滅の可能性が強くなった。
著者
高槻 成紀 三浦 慎吾 玉手 英利
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

金華山では1966年以降初期は断続的に、最近10数年は毎年ニホンジカの個体数調査がおこなわれている。戦後減少していた個体数は1960年代までには500頭前後にまで回復し、安定状態にあったが、1984年に厳冬の影響で約半数が死亡した。これは密度非依存的な減少であるが、しかい半数は残ったので爆発崩壊型の変動パターンとも違う。1997年にも大量死亡が起きたが、このときは厳冬ではなかった。現一在は500頭前後で再び安定している。また一部の人慣れした集団は過去15年間、完全な個体識別により、全個体の年齢と母子関係がわかり、この間に死亡した個体の年齢も明らかになった。また全個体は原則として毎年春と秋に体重、外部計測などをおこなっている。またほとんどの個体は採血をすることによりDNA情報も確保されている。これらをもとに、いくつかの解析をおこなった。食性はイネ科に依存的で、最近ではシバへの依存度が高くなっている。全体に栄養不足であり体重は本土個体に比較して30-40%も少なく、骨格も小型化している。オスは5,6歳まで成長し、このうち20%がナワバリをもった。優位ではあるがナワバリをもてないのが10%、残りの70%は劣位であった。ナワバリオスは交尾の67%を独占した。メスは初産が4歳までずれこみ(通常は2歳)、60%は4歳までに死亡した。出産はほぼ隔年で妊娠率は50%であった(健康な集団では80%以上)。育児年の夏は体重が増加できなかった。父親が特定できた子の父親は交尾回数と対応して、半数以上がナワバリオス約1割が優位オスであった。遺伝子頻度の変動はおおむね機会的であり、選択は働いていないようである。
著者
半澤 直人 玉手 英利 中内 祐二
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ウケクチウグイは、分布が南東北の日本海に流入河川に局限され、生息密度が低いために生態や行動などが不明の絶滅危惧種である。本研究では、ウケクチウグイと比較対象のウグイが生息する山形県最上川水系と28年前に同種を調べた福島県阿賀野川水系を調査地として、ウケクチウグイの生息調査、飼育実験、およびDNA多型に基づく集団解析により、生態や集団構造を推定して絶滅の危険性を判定し、保全の方策を検討した。漁協、国交省河川事務所などの協力によりウケクチウグイの調査を進めた結果、最上川下流、阿賀野川上流ではかなりの個体数を確認したが、最上川上流ではほとんど確認できなかった。特に、唯一ウケクチウグイの産卵が確認されている最上川上流の産卵場では、平成18、19年春は前の冬が異常な暖冬だったせいか、産卵が確認できなかった。野外や飼育下での観察により、ウケクチウグイは魚食性が強いことが確認され、生息密度が低いのはこの食性に起因していると推察された。ミトコンドリアDNA解析では、最上川水系と阿賀野川水系のウケクチウグイ集団は明らかに遺伝的に分化し、全てのウケクチウグイ集団でウグイ集団より遺伝的多様性が著しく低かった。マイクロサテライト解析でもウケクチウグイ集団の遺伝的多様性は著しく低かった。2つの異なるDNAマーカーにより、最上川下流で始めてウケクチウグイとウグイの交雑個体が発見された。以上より、両水系のウケクチウグイ集団の個体数は激減して近親交配が進み、一部では種間交雑も生じて個体の適応度が低下し、絶滅の危険性がより高まっていると推察された。今後は、両水系のウケクチウグイ集団をそれぞれ別な保全単位として、産卵場や生息場所の保全対策を緊急に進めるべきである。