著者
原口 恵
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は,情動刺激の処理と注意機能の関連を明らかにすることを目的とする。まず,情動刺激によるボトムアップ的な操作がその後の情動的注意の時間的側面に及ぼす影響について検討した研究に関しては,情動誘発盲という現象に着目している。この現象は情動的な刺激に注意を向けた直後に出現する標的を見落とす現象であり,刺激に注意を向ける前の情動的な処理が関わっていることが原因として考えられていた。本研究ではこの現象が情動刺激を繰り返し観察させるというボトムアップ的な情動操作によって消失したという結果が報告者の一昨年度の実験から得られている。この結果から,情動的注意の時間的側面には,刺激の情動性について前注意的に評価する段階が関与していることが示唆された。この成果に関しては現在,国際誌に投稿中である。また,情動刺激によるボトムアップ的操作が情動的注意の空間的側面に及ぼす影響について検討した研究に関しては,情動刺激と同じ位置に出現する標的への反応が遅れる現象(情動的復帰抑制)が,事前の情動刺激の反復曝露によって消失したという結果が得られた。この結果から,情動的注意の空間的側面に関しても,情動性の前注意的な評価段階が関与することが示唆された。この成果に関しては本年度の国内学会にて発表された。さらに本年度は,感情刺激の反復曝露による効果が,刺激の入力から反応の出力までに関わる感情処理のどの段階に影響しているのかを,刺激の感情情報の自動的処理が関与していると考えられている情動ストループ効果を用いて検討した。結果として,閾下感情馴化によって不快刺激による情動ストループ効果が消失したことが示された。この結果から,情動刺激の反復曝露が前注意段階の感情処理の機能を損なうことが示唆された。この成果に関しては国内学会で発表された。