- 著者
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原田 一美
- 出版者
- 大阪産業大学
- 雑誌
- 大阪産業大学人間環境論集 (ISSN:13472135)
- 巻号頁・発行日
- no.9, pp.157-175, 2010
1922年に刊行された『ドイツ民族の人種学』は,大きな評判を呼び,ベスト・セラーとなった。著者のハンス・F・K・ギュンターは一躍「人種論のスター」に躍り出て,ワイマル期ばかりか,ナチズム期の人種学,人種主義に大きな影響を与えることになる。本稿では,このギュンターに焦点を当て,彼の人種論の内容を検討し,それに若干の考察を加えた。ギュンターの人種論は,人文科学と自然科学を総合するような内容をもっており,その「科学性」ゆえに多くの知識人を惹きつけた。また,外観から人種を判断できるまなざしを鍛えることを重視し,多くの顔写真を掲載することによって,人びとが日常生活で目にする顔からその人の「人種」を判定できるような「基準」を提示した。このようなギュンターの人種論が評判を呼んだことは,ワイマル期における人種意識の高まりを示すとともに,逆に彼の著作が人種意識をさらに高めるのに貢献したということもできる。また,ナチズム期には,彼の人種分類が学校や党の諸団体においても教材として利用された。親衛隊では,ギュンターが提示した多様な人種の表現型が隊員を選別する際の重要な基準にされたのである。