著者
加藤 智香子 猪田 邦雄 原田 敦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.428-435, 2009 (Released:2009-11-17)
参考文献数
24
被引用文献数
4 5

目的:介護老人保健施設の女性高齢者を対象に,日常生活活動(activities of daily living:ADL)と乖離した高い転倒自己効力感が転倒発生に与える影響について検討した.方法:介護老人保健施設に入所中である70歳以上の女性のうち,Mini-Mental State Examination(MMSE)18点以上で,6カ月間転倒観察が可能であった72名を対象とした.Functional Independence Measure(FIM)運動項目と転倒自己効力感尺度(Falls Efficacy Scale:FES)の散布図からADLと転倒自己効力感の関係を3群に分類した[I群(ADLに比して転倒自己効力感が高い25名),II群(ADLに比して転倒自己効力感が低い30名),III群(ADLと転倒自己効力感に95%信頼区間内で相関関係あり17名)].そして,3群での6カ月後の転倒発生者の割合と転倒回数を比較検討した.さらに,多重ロジスティック回帰分析を用いて転倒発生に関連する要因について検討した.結果:3群において,6カ月後の転倒割合(56.0%vs 26.7%vs 17.7%,p=0.02),転倒回数(1.44 vs 0.47 vs 0.35,p=0.03)に有意な差がみられた.各群間での比較では,I群とIII群間の転倒割合に有意な差が認められた(p=0.02).6カ月後の転倒の有無とは,過去1年間の転倒歴,FESとともにADLに比して転倒自己効力感が高いI群(オッズ比13.20(1.34∼130.12),p=0.027)が有意な関連を示した.結論:日常生活活動と乖離した過度な転倒自己効力感を有する場合には,身体能力に応じた「用心深さ」が失われて注意が散漫になり,転倒リスクが高くなると考えられた.