著者
原田 留美
出版者
新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部
雑誌
新潟青陵大学紀要 (ISSN:13461737)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.129-139, 2006-03-10

児童文学や映画等の児童文化財には、主要な登場人物が望ましい変化を遂げる成長物語が少なくない。アニメーション映画『ハウルの動く城』のハウルも大きな変化を見せるが、それは強くなる、賢くなるといった一般的成長イメージとは逆のものである。ハウルが抱える自己課題は、火の悪魔との契約により既に得ている強大な力を切り離すことによってしか解決されないからである。しかし、得るべきではなかった力を手放し元来の自分を取り戻す過程はハウルが望ましい形で生き続けていくために必要な変化であり、このように捉えるのならばこれもある種の「成長」と言えなくもない。この「成長」につながりうる変化は、心の支えである娘ソフィーとの関係が、当のソフィーにより逆転させられることによってもたらされる。登場人物の関係や成長の要素について、観客が抱きやすい固定化したイメージを逆転させた形で提示するところに、この映画作品の特徴があると考える。
著者
原田 留美 Harada Rumi
出版者
新潟青陵学会
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.25-33, 2015-03

A recently-published textbook for teaching Japanese in Japanese elementary schools contains the myth of the "Conquest of Yamata-no-Orochi" as retold by Ryo Kisaka, based on the classical myth in the Kojiki. The present paper compares this retelling with other versions found in picture books for children as well as with the original Kojiki version, in order to elucidate the elementsdesigned to make it more interesting to elementary-school-age children. First, it was found that the Kisaka version begins in a way that disconnects the narrative almost completely from the contents of the section immediately preceding it, thereby facilitating the enjoyment of an independent story. Also for this purpose, a description of the offering of the Kusanagi Sword to the goddess Amaterasu-O-Mikami is entirely omitted. Furthermore, there is a blurring of the distinction between the high status of Susano-no-Mikoto (who descends from the heavenly realms called Takama-no-Hara), and the lower one of Ashinazuchi (who merely dwells upon the earth). Other elements include the omission of graphic details involved in the conquest of Yamata-no-Orochi, simplifying and softening the effect for children. Overall, the adaptations in the retelling therefore made the myth more accessible and enjoyable for young readers, while nevertheless remaining faithful to the original Kojiki version.学校図書から発行されている小学校国語科教科書には、きさかりょうによるヤマタノヲロチ退治神話の再話作品が採用されている。古事記の神話を基にしているこの作品では、子ども達に親しみやすい作品となるよう、どのような工夫がなされているかについて明らかにするために、古事記ならびに他の絵本作品と比較した。その結果、独立した物語として親しめるよう、前段との繋がりに極力触れない書き出しになっており、それに対応して、草薙剣 (くさなぎのつるぎ) のアマテラスオオミカミへの献上の下りが省かれている、高天 (たかま) の原から降りてきたスサノオノミコトと地上世界の神であるアシナヅチとの間に明確な階層差を設けていない、グロテスクな描写を省きオロチ退治の場面の描き方をあっさり描くにとどめている等の特徴があることが分かった。原典に寄り添いつつ、幼い読み手にとって親しみやすい再話となるよう工夫されている作品であると言える。
著者
原田 留美
出版者
新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部
雑誌
新潟青陵大学紀要 (ISSN:13461737)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.149-163, 2008-03-10

今回も、新潟青陵幼稚園の平成17年度年間指導計画の素話部分を分析した。研究の目的は、素話の際の昔話選定の手がかりを見つけ出すことである。分析、考察の結果、同系統の昔話においては、物語構造を比較することで、物語の難しさが客観的に比較できることが確認できた。また、笑いの要素やスリリングな要素が含まれているもの、由来の要素が含まれているもの、または物語展開を促すある種の論理が認められるものなどは、年長児によりふさわしい物語であることも確認された。
著者
原田 留美
出版者
新潟青陵学会
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-23, 2018-03

紙芝居は、絵本と並んで、幼児教育の場で良く用いられる教材である。その紙芝居のテキストには、幼年童話や絵本とは異なる特徴がある。情景描写や心理の伝え方が簡潔で、地の文は少なくセリフが多い。また、オノマトペ(擬音語・擬態語)を活用することでわかりやすさに配慮する傾向も見られる。しかし、松谷みよ子の幼年童話「ママになんか わかんない」と、それを紙芝居にした『ちゅうしゃにいった モモちゃん』のテキストを比較したところ、山場での主人公の心理については、幼年童話作品以上に筆が費やされていることが確認出来た。紙芝居のテキストはすべてが簡潔というわけではない。紙芝居の読み聞かせの際には、このことを念頭に置く必要がある。丁寧に描かれている部分については、特にその場面の重要性を意識した読み方を工夫し、その作品の魅力が聞き手に伝わるよう配慮することが肝要である。