著者
原田 経子 小泉 武栄
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-14, 1997
参考文献数
25
被引用文献数
3 1

平標山 (1983. 7m) の山頂から東に伸びる尾根には, パッチ状の裸地が多数分布し, 階段状構造土によく似た段々を形づくる。本研究ではパッチ状裸地の成因とその拡大速度を知るために, 裸地の北側の縁にある高さ20cm程度の小崖に測定棒を埋設し, 崖の後退速度を計測した。<br>小崖の後退速度は平均して年に1.8cmであった。この値は Perez (1992) がベネズエラの高山から報告した0.69cm/年の3倍近い。小崖での侵食量は5~7月頃最大となるが, これは春先, 凍土が融解することによって礫が緩み, 土壌や植物の根も霜柱などによってほぐされたところに, 強い南風が吹くことによって生じている。小崖の上部は植物の根が土壌を固定していひさしるため, 侵食されにくく, 基部の方が先に削られる。その結果小崖上部は庇となって突き出るが, それはやがて崩落し, 侵食されて消滅する。<br>わが国の高山によくみられるパッチ状裸地には, その向きから北西の季節風によって形成されたと考えられるものが多い。しかし平標山の場合は春と秋の強い南風が侵食の主因になっており, この点が非常に特徴的である。