著者
河﨑 靖範 村上 賢治 古澤 良太 尾関 誠 松山 公三郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに】蘇生後患者は低酸素脳症による高次脳機能障害や運動麻痺等の合併症のため,社会復帰に難渋する場合が多い。当院では蘇生後患者に対して,PT,OT,STや心理士が介入した多職種協働のリハビリテーション(リハ)を提供している。目的は蘇生後患者に対するリハの効果について検討した。【方法】2009年1月から2013年12月にリハを実施した蘇生後患者8例(年齢61±23歳,男/女=6/2,入院/外来=5/3)を対象として,基礎疾患,低酸素脳症身体障害の有無,ICDの植込み,リハ職種の介入,リハ期間,6分間歩行距離(6MD),高次脳機能障害,Barthel Index(BI),転帰について調査した。リハプログラムは,PTは通常の心大血管疾患リハに準じて,モニター監視下にウォーミングアップ,主運動にエルゴメータや歩行エクササイズ(EX),レジスタンストレーニングを実施し,高次脳機能障害(記憶・注意・遂行機能)に対して心理士,ST,OTが介入した。心理士は高次脳機能障害の評価とEX,STはコミュニケーション障害の評価とEX,OTはADL障害の評価とEXを実施した。各症例の心肺停止から心拍再開までの経過;症例1:自宅で前胸部痛あり,救急車要請し,救急隊到着時Cardiopulmonary arrest(CPA)状態,CardioPulmonary Resuscitation(CPR)実施,10分後心拍再開(発症から蘇生までの推定時間:約15分)。症例2:自宅で呼吸苦出現し,当院到着後CPA状態,外来でdirect current(DC)およびCPR施行,10分後に心拍再開(約10分)。症例3:自宅でCPA状態,家人救急車要請しCPR実施,約20分後救急隊到着Automated External Defibrillator(AED)施行,26分後車内で蘇生(約45分)。症例4:自宅でCPA状態Emergency Room(ER)搬送,CPRにて心拍再開(約60分)。症例5:自宅でCPA状態ER搬送,心拍再開(不明)。症例6:自宅で飲酒中に意識消失,10分後CPA状態で救急隊にてAEDとCPR施行,18分後心拍再開(約30分)。症例7:心室細動にてAED,心拍再開(不明)。症例8:フットサル休憩中に意識消失CPA状態,10分後救急隊到着AED施行,10分後救急車内で心拍再開(約20分)。【結果】基礎疾患は急性心筋梗塞5例,不整脈原性右室心筋症1例,原因不明2例であった。心室細動が確認された5例に電気的除細動が施行され,低酸素脳症後遺症は高次脳機能障害が8名中6名,右下肢の運動麻痺は1名に認めた。その後のICD植込みは4例(ICD3,CRTD1)であった。リハ職種の介入はPT8例,心理士5例,ST4例,OT3例であった。入院時6MD(m)が測定可能であった8名中4名は,リハ開始時233±196からリハ終了時425±96となった(n.s)。記憶は,高次脳機能障害を認めた6名中,検査を実施した4名の記憶を評価するリバーミード行動記憶検査は,リハ開始時は重度3名,中等度1名からリハ終了時は中等度が3名,軽度1名まで改善した。注意・遂行機能を評価するトレイルメイキング検査は,年齢を考慮しても改善傾向にあった。リハ期間は入院外来を含めて251±311(最短41~最長953)日で,リハ中の虚血性変化,不整脈等の心事故の出現はなかった。BI(点)はリハ開始時72±35からリハ終了後95±5であった(n.s)。外来2名を含む8名全例が自宅退院し,現職者4名中3名は現職復帰し,4名は退職後の高齢者であった。【考察】長期のリハ介入によって,運動能力は改善傾向を示し,高次脳機能障害は,記憶と注意の障害に改善を認めた。記憶や注意・遂行機能障害に対しては,代償手段としてのメモリーノートや携帯アラームなどの外的補助手段を活用した。また高次脳機能と脳血流量は関連があるとする報告も多くあるが,本研究においては運動能力やADLにおいて改善傾向を示したが,有意差はなかった。記憶や注意・遂行機能の改善は,自然治癒も含まれリハ効果と言うより主に障害を家族に理解して頂くための関わりが中心であり,必要に応じてカウンセリングや就労支援も実施した。【理学療法学研究としての意義】蘇生後患者の社会復帰のためには,高次脳機能障害等の合併症の観点からPTが介入する有酸素運動を中心とした運動療法のみならず,心理士,ST,OTや等の多職種協働のリハが必要と思われた。
著者
古澤 良太 冨岡 勇貴 河﨑 靖範 槌田 義美 尾関 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100532, 2013

【はじめに】中大脳動脈領域損傷の患者において、ADLに必要な動作能力を有していても高次脳機能障害の影響により、理学療法やADL動作獲得の阻害因子となることを臨床上多く経験する。その中でも運動維持困難(MI)が明らかな左片麻痺患者は長期のリハビリテーション期間を要し、ADL動作や歩行の達成度が低い傾向が指摘されている(石合2003)。今回、高次脳機能障害による麻痺側下肢への持続的な荷重困難のため、安定した立位保持・歩行困難が長期間改善しなかった症例に対し、心理士と共に阻害因子を分析してプログラムの見直しを行い、自己教示法を用いた運動維持課題を実施したところ顕著な改善が認められたので、その効果を報告する。【方法】59歳女性、右利き、病前ADLは自立、特筆すべき既往歴はなかった。2011年12月に心原性脳塞栓症、左片麻痺と診断され、脳浮腫に対して外減圧術施行後、翌年1月に当院入院となった。運動機能は左下肢BRSII、非麻痺側上下肢MMT4、著明なROM制限なし、感覚テストは表在・深部覚とも重度鈍麻であった。高次脳機能障害はMI、注意障害、抑制障害、USNが認められた。動作能力は起居・起立動作は監視、車椅子駆動は自立、歩行は平行棒内にてKAFO軽介助、ADLは全般的に声かけを要し、移乗・排泄動作は介助を要していた。本介入以前は入院後早期よりKAFOを用いた起立・歩行・階段昇降・荷重exを6ヶ月間継続し、注意喚起を行うことでAFOでの荷重は可能となった。しかし、麻痺側下肢への直接的な荷重exでは荷重時間の延長を図ることは困難であったことから、原因をMIと考え、より簡易な動作でMIを改善させてから持続的に立位を可能にすることを企図した。MI exとしてJointらの評価項目(1965)から閉眼・側方視維持・頭部回旋位保持の3項目を実施した。さらに注意の転導性を認めたため、動作を持続し易くさせることを目的に目標とする秒数まで自分で数える一種の自己教示法を併用した。目標時間は確実に可能な持続時間より開始し、3日間連続して可能となった際に目標時間を漸増させた。MI exの般化指標としてJointらの評価項目より開口・固視・発声の3項目を記録した。また身体機能面の般化指標として麻痺側下肢荷重率及び持続時間、非麻痺側上下肢荷重率を日立機電社製立位練習機「エチュードボー」を使用し、記録した。MI exは3週間継続し、般化指標の評価は介入前1週間のベースライン期を含む4週間、週に3回実施した。本介入以前に実施していたその他のexは継続した。【説明と同意】本症例に対し、研究に関する趣旨を説明して同意を得た。【結果】各般化指標のベースライン期3日間と介入3週目の平均値を比較したところ、MIの指標では左右の固視以外の項目において全般的に改善が認められ、身体機能面では平均麻痺側荷重持続時間は2秒から78秒へ大幅に向上し、麻痺側下肢荷重率は5%から10%への向上を認めた。MI exでは左側方視の維持は変化が認められなかったが、閉眼・頭部回旋位保持の向上が認められた。また、MI ex導入後1ヶ月で移乗・排泄動作は自立し、歩行はさらに2週間後にT字杖とプラスチックAFOにて連続120mの監視歩行が可能となり、歩行能力の改善が認められた。【考察】今回、MIのために麻痺側下肢の持続的荷重に対する直接的なアプローチが困難なため、立位・歩行が困難な症例に対して、自己教示法を用いたMI exを試みた。立位や荷重exよりも簡易な動作としてJointらのMI評価から目標とする秒数まで自己にて数える事が可能な項目を選択した。より簡易な課題から持続可能にすることで、間接的に麻痺側下肢の運動維持が可能となった。また、簡易な課題だけではなく、確実に持続可能な目標の秒数まで自分で数えることから実施し、少しずつ目標時間を漸増させたことにより目標が明確となったこと、可能な持続時間から開始し、徐々に目標を達成したことで意欲が向上し運動の維持が容易になったと考えられた。運動維持時間が延長されたことにより、麻痺側下肢の荷重が可能となり、理学療法介入時における動作の安定性が向上した。その結果として日中の排泄動作が自立し、歩行能力が向上したと考えられた。このことから動作可能な身体機能を有していてもMIにより持続的な荷重が困難な症例に対して、MIへのアプローチは動作獲得に有用であると思われた。【理学療法学研究としての意義】MIにより直接的な荷重アプローチが困難な症例に対して、MI exが運動維持に対して有用であり、姿勢の持続に有用である可能性が示唆された。
著者
新堀 晃史 古澤 良太 村上 賢治 松岡 達司 河崎 靖範 槌田 義美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】Honda歩行アシスト(歩行アシスト)は股関節の屈曲伸展運動にトルクを負荷して歩行を補助する装着型歩行補助装置である。先行研究では,歩行アシストの使用により脳卒中片麻痺患者の歩行速度向上,歩幅増加などが報告されている。しかし,歩行アシストを使用した前方ステップ練習が歩行能力にどのような効果を及ぼすか検討した報告はみられない。今回,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中片麻痺患者に対し,歩行アシストを使用した前方ステップ練習を行った結果,歩行能力の向上を認めたので報告する。【方法】対象は左被殻出血により右片麻痺を呈した60歳代の女性。発症からの期間は135日,BRSは上肢III,手指III,下肢IV,感覚は鈍麻,MASは2(下腿三頭筋),歩行能力はT-cane歩行軽介助(プラスチックAFO)で2動作揃え型歩行であり,イニシャルスイング(ISw)にトゥドラッグがみられた。研究デザインはABAB法によるシングルケーススタディを用いた。基礎水準期(A1,A2期)には通常の前方ステップ練習+歩行練習を実施し,介入期(B1,B2期)には歩行アシストを使用した前方ステップ練習+歩行練習を実施した。各期間は2週間(5日/週)とし,評価内容は通常歩行速度(m/sec),歩幅(m),歩行率(step/min),筋力(kgf/kg)とした。通常歩行速度,歩幅,歩行率は各期間に5回ずつ測定し,筋力は各期間の前後5回計測した。筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTasF-1)を使用し股関節屈曲,膝関節屈曲,膝関節伸展,足関節底屈,足関節背屈の最大等尺性収縮を測定した。前方ステップ方法は,開始肢位として非麻痺側下肢を前方に出した立位とし,麻痺側下肢を振り出す動作と,連続して非麻痺側下肢を振り出す動作の2種類を行い,練習時間は20分とした。その他,通常の理学療法を実施した。統計学的手法として,通常歩行速度,歩幅,歩行率は2標準偏差帯法(2SD法)を用いて分析した。2連続以上のデータポイントが基礎水準期の平均値±2SDの値より大きいもしくは小さい場合は,統計学的な有意差があると判断した。有意水準は5%未満とした。【結果】通常歩行速度は,A1期からB1期,A2期からB2期で有意差が認められた(p<0.05)。B1期からA2期では有意差は認められなかった。歩幅は,A1期からB1期,A2期からB2期で有意差が認められた(p<0.05)。B1期からA2期では有意差は認められなかった。歩行率は,各期ともに有意差は認められなかった。筋力は非麻痺側の股関節屈曲,足関節底屈,麻痺側の足関節底屈が介入期に高い変化量を示した(非麻痺側股関節屈曲はA1期:0.18,B1期:0.25,A2期:0.26,B2期:0.26,非麻痺側足関節底屈はA1期:0.19,B1期:0.23,A1期:0.28,B2期:0.36,麻痺側足関節底屈はA1期:0.10,B1期:0.09,A1期:0.08,B2期:0.21)。最終評価時の歩行能力はT-cane歩行自立(プラスチックAFO)で2動作前型歩行となり,ISwにトゥドラッグはみられなかった。【考察】通常歩行速度と歩幅は,非介入期と比較し,介入期において有意に改善がみられた。筋力は非麻痺側の股関節屈曲,足関節底屈,麻痺側の足関節底屈が介入期に高い変化量を示した。歩行は最終評価時には2動作前型歩行となった。本症例は,麻痺側股関節屈曲筋力低下および足関節の筋緊張亢進により,麻痺側下肢筋の同時収縮がみられ遊脚期における膝関節屈曲角度が不足し,ISwにトゥドラッグが出現していた。大畑らによると,歩行アシスト装着による歩行で,片麻痺患者の遊脚期に生じる最大膝関節角度がアシスト強度に伴って有意に増加したとしている。今回,介入期に歩行アシストを使用した前方ステップ練習を行ったことで,遊脚期の膝関節屈曲角度の増加がみられ,トゥドラッグが改善し,歩幅の増加による歩行速度の向上につながったものと考えられた。また,非麻痺側の股関節屈曲,足関節底屈,麻痺側の足関節底屈筋力が向上したことで,歩幅や麻痺側単脚立脚期の増加につながり,最終評価時において2動作前型歩行となったものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】歩行アシストを使用した前方ステップ練習が,回復期脳卒中片麻痺患者における歩行能力向上の効果を示唆するものであり,脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングに有効な介入手段になるものと考える。