著者
橋本 隆哉 松岡 達司 河﨑 靖範 槌田 義美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BcOF1042, 2011

【目的】脳卒中患者に対するリハビリテーションアプローチにおいてEvidence-Based Medicine(EBM)の重要性が提唱され、脳卒中治療ガイドライン2009においては起立-着席訓練(以下起立訓練)や歩行訓練などの下肢訓練量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められ、推奨グレードはAとなっている。今回、当院においても脳卒中患者に対して起立訓練を積極的に推奨することを目的に、試験的に起立訓練を実施し移乗動作や歩行、ADLに対しての効果を調査し、良好な結果を得たので報告する。<BR>【対象】H22年5月から10月(6ヶ月間)までに当院の回復期リハビリテーション病棟を退院した初回脳卒中患者107名で重度の意識・高次脳機能障害、下肢の整形疾患の既往、全身状態不良の患者を除外し、通常訓練に加えて積極的に起立訓練を行った群(起立群)と通常訓練群(通常群)の2群に無作為に分類した。その中より入院時FIM79点以下、かつ下肢Brunnstrom Stage(以下BRS)においてステージ4レベル以下の患者を抽出し、退院まで経過を追うことができた起立群11名(男性6名、女性5名、平均年齢64.9±11.6歳、下肢BRS;ステージ1:3名、ステージ2:6名、ステージ3:2名)と通常群7名(男性2名、女性5名、平均年齢70.3±13.7歳、下肢BRS;ステージ1:3名、ステージ3:2名、ステージ4:2名)とした。<BR>【方法】在院日数、入・退院時FIM得点、FIM利得、FIM効率、移乗動作獲得までの日数、歩行獲得までの日数をt検定にて2群間を比較した。起立群においては1日当たりの平均起立訓練量の推移を調査した。<BR>【説明と同意】発表に際して全ての症例に対し十分説明を行い、同意を得た。また本研究はデータ抽出し、集計分析した後は個人情報を除去し、施設内の倫理委員会の審査を経て承認を得た。<BR>【結果】在院日数は、起立群135.7±35.1日、通常群137.9±26.1日で有意差はみられなかった。入院時FIM得点は、起立群32.9±10.8点、通常群42.3±20.5点、退院時FIM得点は、起立群88.9±18.9点、通常群78.0±35.2点で有意差はみられなかった。FIM利得は、起立群56.0±15.6点、通常群35.7±17.1点で有意差が見られた(p<0.01)。また、FIM効率においても、起立群0.44±0.19点、通常群0.26±0.13点で有意差がみられた(p<0.05)。退院時移乗動作獲得者は、起立群では11名中8名(73%)で移乗動作獲得までの日数は68.0±18.9日であり、通常群では7名中3名(43%)で移乗動作獲得までの日数は44.3±3.2日で有意差はみられなかった。退院時歩行獲得者は起立群では11名中7名(63%)で歩行獲得までの日数は97.7±34.6日であり、通常群では7名中2名(29%)で歩行獲得までの日数は86.0±52.3日で有意差はみられなかった。起立群における1日当たりの平均起立訓練量は、リハ開始から1週間で49.2回、1ヶ月目83.4回、2ヶ月目107.3回、3ヶ月目95.9回、退院時103.3回であった。<BR>【考察】原は、早期に起立訓練を開始することが、歩行獲得と歩行のレベルにも影響すると報告している。三好は、起立訓練は健側下肢を強化するだけでなく、麻痺の促通、バランス訓練にもなり、片麻痺者の身体不自由を最も効果的に改善すると述べている。今回、起立群において入院時早期から積極的に起立訓練を行った結果、安静臥床期間における身体機能低下を最小限に留め、下肢筋力・麻痺促通等の身体機能の改善を得られたため、FIM利得・FIM効率の向上につながったものと推測され、退院時移乗動作・歩行獲得者数においても起立群が高い獲得率を得られたものと思われた。起立群における1日当たりの平均起立訓練量では、3ヶ月目になると起立訓練の回数が減少する傾向が見られた。この要因として自宅退院前ではよりADL訓練の比重が大きくなる為、起立訓練の回数が減少したものと思われた。また、退院前に増加した理由としては、リハ訓練、病棟訓練のみでなく、自主トレーニングによる起立訓練が行われた結果だと思われた。今後は、さらに症例数を増やし、脳卒中患者への起立訓練の影響を検証していきたい。又、起立訓練を積極的に取り入れた症状別のリハビリテーションプログラムを導入していきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中患者に対する起立訓練は、下肢筋力や歩行能力向上に伴うADL向上に有効であることが示唆された。
著者
河﨑 靖範 村上 賢治 古澤 良太 尾関 誠 松山 公三郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに】蘇生後患者は低酸素脳症による高次脳機能障害や運動麻痺等の合併症のため,社会復帰に難渋する場合が多い。当院では蘇生後患者に対して,PT,OT,STや心理士が介入した多職種協働のリハビリテーション(リハ)を提供している。目的は蘇生後患者に対するリハの効果について検討した。【方法】2009年1月から2013年12月にリハを実施した蘇生後患者8例(年齢61±23歳,男/女=6/2,入院/外来=5/3)を対象として,基礎疾患,低酸素脳症身体障害の有無,ICDの植込み,リハ職種の介入,リハ期間,6分間歩行距離(6MD),高次脳機能障害,Barthel Index(BI),転帰について調査した。リハプログラムは,PTは通常の心大血管疾患リハに準じて,モニター監視下にウォーミングアップ,主運動にエルゴメータや歩行エクササイズ(EX),レジスタンストレーニングを実施し,高次脳機能障害(記憶・注意・遂行機能)に対して心理士,ST,OTが介入した。心理士は高次脳機能障害の評価とEX,STはコミュニケーション障害の評価とEX,OTはADL障害の評価とEXを実施した。各症例の心肺停止から心拍再開までの経過;症例1:自宅で前胸部痛あり,救急車要請し,救急隊到着時Cardiopulmonary arrest(CPA)状態,CardioPulmonary Resuscitation(CPR)実施,10分後心拍再開(発症から蘇生までの推定時間:約15分)。症例2:自宅で呼吸苦出現し,当院到着後CPA状態,外来でdirect current(DC)およびCPR施行,10分後に心拍再開(約10分)。症例3:自宅でCPA状態,家人救急車要請しCPR実施,約20分後救急隊到着Automated External Defibrillator(AED)施行,26分後車内で蘇生(約45分)。症例4:自宅でCPA状態Emergency Room(ER)搬送,CPRにて心拍再開(約60分)。症例5:自宅でCPA状態ER搬送,心拍再開(不明)。症例6:自宅で飲酒中に意識消失,10分後CPA状態で救急隊にてAEDとCPR施行,18分後心拍再開(約30分)。症例7:心室細動にてAED,心拍再開(不明)。症例8:フットサル休憩中に意識消失CPA状態,10分後救急隊到着AED施行,10分後救急車内で心拍再開(約20分)。【結果】基礎疾患は急性心筋梗塞5例,不整脈原性右室心筋症1例,原因不明2例であった。心室細動が確認された5例に電気的除細動が施行され,低酸素脳症後遺症は高次脳機能障害が8名中6名,右下肢の運動麻痺は1名に認めた。その後のICD植込みは4例(ICD3,CRTD1)であった。リハ職種の介入はPT8例,心理士5例,ST4例,OT3例であった。入院時6MD(m)が測定可能であった8名中4名は,リハ開始時233±196からリハ終了時425±96となった(n.s)。記憶は,高次脳機能障害を認めた6名中,検査を実施した4名の記憶を評価するリバーミード行動記憶検査は,リハ開始時は重度3名,中等度1名からリハ終了時は中等度が3名,軽度1名まで改善した。注意・遂行機能を評価するトレイルメイキング検査は,年齢を考慮しても改善傾向にあった。リハ期間は入院外来を含めて251±311(最短41~最長953)日で,リハ中の虚血性変化,不整脈等の心事故の出現はなかった。BI(点)はリハ開始時72±35からリハ終了後95±5であった(n.s)。外来2名を含む8名全例が自宅退院し,現職者4名中3名は現職復帰し,4名は退職後の高齢者であった。【考察】長期のリハ介入によって,運動能力は改善傾向を示し,高次脳機能障害は,記憶と注意の障害に改善を認めた。記憶や注意・遂行機能障害に対しては,代償手段としてのメモリーノートや携帯アラームなどの外的補助手段を活用した。また高次脳機能と脳血流量は関連があるとする報告も多くあるが,本研究においては運動能力やADLにおいて改善傾向を示したが,有意差はなかった。記憶や注意・遂行機能の改善は,自然治癒も含まれリハ効果と言うより主に障害を家族に理解して頂くための関わりが中心であり,必要に応じてカウンセリングや就労支援も実施した。【理学療法学研究としての意義】蘇生後患者の社会復帰のためには,高次脳機能障害等の合併症の観点からPTが介入する有酸素運動を中心とした運動療法のみならず,心理士,ST,OTや等の多職種協働のリハが必要と思われた。
著者
古澤 良太 冨岡 勇貴 河﨑 靖範 槌田 義美 尾関 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100532, 2013

【はじめに】中大脳動脈領域損傷の患者において、ADLに必要な動作能力を有していても高次脳機能障害の影響により、理学療法やADL動作獲得の阻害因子となることを臨床上多く経験する。その中でも運動維持困難(MI)が明らかな左片麻痺患者は長期のリハビリテーション期間を要し、ADL動作や歩行の達成度が低い傾向が指摘されている(石合2003)。今回、高次脳機能障害による麻痺側下肢への持続的な荷重困難のため、安定した立位保持・歩行困難が長期間改善しなかった症例に対し、心理士と共に阻害因子を分析してプログラムの見直しを行い、自己教示法を用いた運動維持課題を実施したところ顕著な改善が認められたので、その効果を報告する。【方法】59歳女性、右利き、病前ADLは自立、特筆すべき既往歴はなかった。2011年12月に心原性脳塞栓症、左片麻痺と診断され、脳浮腫に対して外減圧術施行後、翌年1月に当院入院となった。運動機能は左下肢BRSII、非麻痺側上下肢MMT4、著明なROM制限なし、感覚テストは表在・深部覚とも重度鈍麻であった。高次脳機能障害はMI、注意障害、抑制障害、USNが認められた。動作能力は起居・起立動作は監視、車椅子駆動は自立、歩行は平行棒内にてKAFO軽介助、ADLは全般的に声かけを要し、移乗・排泄動作は介助を要していた。本介入以前は入院後早期よりKAFOを用いた起立・歩行・階段昇降・荷重exを6ヶ月間継続し、注意喚起を行うことでAFOでの荷重は可能となった。しかし、麻痺側下肢への直接的な荷重exでは荷重時間の延長を図ることは困難であったことから、原因をMIと考え、より簡易な動作でMIを改善させてから持続的に立位を可能にすることを企図した。MI exとしてJointらの評価項目(1965)から閉眼・側方視維持・頭部回旋位保持の3項目を実施した。さらに注意の転導性を認めたため、動作を持続し易くさせることを目的に目標とする秒数まで自分で数える一種の自己教示法を併用した。目標時間は確実に可能な持続時間より開始し、3日間連続して可能となった際に目標時間を漸増させた。MI exの般化指標としてJointらの評価項目より開口・固視・発声の3項目を記録した。また身体機能面の般化指標として麻痺側下肢荷重率及び持続時間、非麻痺側上下肢荷重率を日立機電社製立位練習機「エチュードボー」を使用し、記録した。MI exは3週間継続し、般化指標の評価は介入前1週間のベースライン期を含む4週間、週に3回実施した。本介入以前に実施していたその他のexは継続した。【説明と同意】本症例に対し、研究に関する趣旨を説明して同意を得た。【結果】各般化指標のベースライン期3日間と介入3週目の平均値を比較したところ、MIの指標では左右の固視以外の項目において全般的に改善が認められ、身体機能面では平均麻痺側荷重持続時間は2秒から78秒へ大幅に向上し、麻痺側下肢荷重率は5%から10%への向上を認めた。MI exでは左側方視の維持は変化が認められなかったが、閉眼・頭部回旋位保持の向上が認められた。また、MI ex導入後1ヶ月で移乗・排泄動作は自立し、歩行はさらに2週間後にT字杖とプラスチックAFOにて連続120mの監視歩行が可能となり、歩行能力の改善が認められた。【考察】今回、MIのために麻痺側下肢の持続的荷重に対する直接的なアプローチが困難なため、立位・歩行が困難な症例に対して、自己教示法を用いたMI exを試みた。立位や荷重exよりも簡易な動作としてJointらのMI評価から目標とする秒数まで自己にて数える事が可能な項目を選択した。より簡易な課題から持続可能にすることで、間接的に麻痺側下肢の運動維持が可能となった。また、簡易な課題だけではなく、確実に持続可能な目標の秒数まで自分で数えることから実施し、少しずつ目標時間を漸増させたことにより目標が明確となったこと、可能な持続時間から開始し、徐々に目標を達成したことで意欲が向上し運動の維持が容易になったと考えられた。運動維持時間が延長されたことにより、麻痺側下肢の荷重が可能となり、理学療法介入時における動作の安定性が向上した。その結果として日中の排泄動作が自立し、歩行能力が向上したと考えられた。このことから動作可能な身体機能を有していてもMIにより持続的な荷重が困難な症例に対して、MIへのアプローチは動作獲得に有用であると思われた。【理学療法学研究としての意義】MIにより直接的な荷重アプローチが困難な症例に対して、MI exが運動維持に対して有用であり、姿勢の持続に有用である可能性が示唆された。
著者
濵田 直人 原田 真二 本田 ゆかり 河﨑 靖範 槌田 義美 田中 智香 山鹿 眞紀夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0244, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 当院では早期の移動能力獲得を目的に脳卒中患者に対して積極的に下肢装具を使用しており、患者や理学療法士にとっての即時性や利便性を考え、テスト用装具として各種の長下肢装具(以下KAFO)、短下肢装具(以下AFO)15種類を常備している。理学療法士は、患者の病態に適した装具が処方されるように各種特色のあるテスト用装具を試す事ができるが、多種類の下肢装具の中から最適な装具を選定するのに迷う場合も少なくない。そこで今回、院内の装具使用の標準化を図り、装具選定を行う際の指標となるような脳卒中下肢装具アルゴリズム表(以下アルゴリズム表)を試作し、その有用性を検証したので報告する。【対象】 平成19年4月1日~10月31日の間に、当院回復期病棟入院中の脳卒中患者125名のうち下肢装具が処方された延べ75名を対象とした。【方法】 1)アルゴリズム表の作成にあたり、過去の文献を参考として各種テスト用装具の機能的特徴、適応病態等をまとめた。脳卒中患者では病態による個人差が大きいので、アルゴリズム表の選択項目に身体状況や生活環境等を加えた。更に、過去に当院に入院していた脳卒中患者の装具処方時の情報を参考にした。 2)アルゴリズム表の有用性をみるため、選択された装具と実際に処方された装具の合致率を調査した。また、非合致例はその原因を自由記載した。【当院に常備するテスト用装具の種類】 1)KAFO type(計2種類); Ring lock継手・SPEX継手 2)AFO type(4分類、計13種類); 1.金属支柱付(1種類) 2.プラスチック前方支柱型(3種類) 3.プラスチック後方支柱型(3種類) 4.継手付(6種類) 【結果】 1)アルゴリズム表の選択項目を身体機能(Brunnstrom stage、筋緊張の程度、関節可動域、感覚障害等)、歩容、装具の使用環境、高次脳機能障害等とし、患者の病態を照らし合わせることで装具選定できるようにアルゴリズム表を試作し、通常の訓練、装具回診時に活用した。 2)合致率は79%{KAFO;81%、AFO4分類(1.金属支柱付 2.プラスチック前方支柱型 3.プラスチック後方支柱型 4.継手付);76%}であった。【考察】 試作したアルゴリズム表は、KAFOやAFO4分類の合致率は比較的高値を示しており、当院における装具選定の標準化が図れたと考えられる。また、簡易的ではあるが装具の特徴を理解する事ができ、装具選定の際の指標となり業務改善につながると期待される。しかし、非合致例の原因として装具への工夫、病態の予後予測、退院後の生活環境等の考慮が不十分であった事が挙げられた。アルゴリズム表の選択項目を追加修正し、より信頼性の高いものに改訂することが今後の課題と考えている。