著者
林 政喜 隅田 康明 合志 和晃 松永 勝也
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.459-469, 2014-01-15

自動車運行における衝突事故は,当該車両の停止距離よりも進行方向の障害物までの距離(進行方向空間距離,または車間距離)が短い場合に発生する.衝突事故防止のためには,それぞれの車両の運転者は停止距離よりも長い車間距離を保持して走行することが必要である.ところが,現実には多くの運転者が停止距離よりも短い車間距離で走行している.多くの運転者が短い車間距離で走行している要因の1つとして,運転者が無意識的あるいは意識的にできる限り早く目的地に到着するようにできるだけ高い速度走行しようとするような先急ぎ運転をしていることが考えられる.これは,運転者が先急ぎ運転による旅行時間の短縮という利益を優先し,不安全な先急ぎ運転を選択した結果とも考えられる.先急ぎ運転による事故防止のためには,運転者に先急ぎ運転による利益よりも不利益の方が大であることを理解させ,平素の運転において十分な車間距離を保持した運転を繰り返し訓練していくことが有効であると考えられる.そこで,運転時の移動効率(旅行時間)とその運転における安全度(危険度)を記録・分析できるシステムの開発を行った.また,公道上のコースを走行する実験を行い,運転行動の記録,評価,詳細分析を行った.その結果,先急ぎ運転で得られる時間的利益は平均6.6%であったが統計的に有意な差ではなかった.これに対して,先急ぎ運転による運転時の不安全度は平均37.1ポイント増加し,また,主観調査によって先急ぎ運転の方が大きな危険感,疲労感,緊張感を感じていたことを明らかにした.本システムによって,平素の運転の危険度を提示することで,日々の運転を通して自然に安全運転習慣の形成が可能であると考えられる.
著者
合志 和晃 松永 勝也 黒木 大一朗 志堂寺 和則 松木 裕二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.1754-1761, 2001-07-15
被引用文献数
7

自動車の運転事故による交通事故死者の数は,世界で年間50万人以上といわれている.これらによる損失は非常に深刻な問題となっている.そのため,近年,ITS(高度道路交通システム)をはじめとする自動車運転事故防止のための技術開発,研究が進められている.我々は,新しい交通事故防止の理論に基づく自動車運転事故防止のためのITSとして安全運転管理教育システム(ASSIST)を設計し開発を行っている.事故類型別の交通事故件数では,追突と交差点での出合頭の衝突の事故が多い.追突事故防止には,進行方向空間距離(当該車両からその進行方向にある最も近い障害物までの距離)を停止距離よりも大きくとることが必要である.また交差点での運転挙動の改善は,本人の運転挙動の問題点を客観的に分からせることが効果的であった.ところが,これまで,自動車は,閉じられた空間であり,運転者の運転挙動を知るには同乗するほかに方法がなかった.しかし,近年の情報通信技術の発達にともない自動車に搭載した装置によって運転者の運転挙動を取得し通信で外部に知らせることが可能になってきた.運転者の運転挙動を把握し,危険な運転をした場合に,その場で随時教育すれば教育効果も高いため,交通事故を大幅に減少できると予測できる.そこで,交差点での一時停止に関する管理・教育の実験によってASSISTの有用性を確認した.It is reported that more than half a million souls are lost per year by traffic accidents in the world.These losses are a very serious topic today.Our research team is therefore developing and designing an Assistant System for Safe driving by Informative Supervision and Training (ASSIST),a system created to prevent accidents based on our safe driving theory.One important element for safe driving is that drivers should leave more headway distance than stopping distance.The results of our research revealed that understanding the efficiency of adequate speed and recognizing their own driving behavior are very effective for drivers to create sufficient headway distance.Until now, with a driver in a closed space inside the car,no one could understand and supervise his driving behavior unless a supervisor is with him in the same car.However, recent computer and communication technologies have made it possible to obtain the driving behavior and send it to the supervisor outside of the car.It is believed to be efficient to teach safe driving whenever a driver has driven dangerously.We therefore conducted experiments regarding temporary stops at intersections as well as understanding driving behavior through communication,and then confirmed the effectiveness of ASSIST.