著者
吉地 望 西部 忠
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.1-14, 2007-09

本稿では,対極的な性質を有する集中的発行通貨(法定通貨)と分散的発行通貨(特定の地域通貨)をモデルによって表現し,コンピューター・シミュレーションを実行することによりLETSのような相互信用・分散的発行方式の持つ長所を明らかにすると同時にその課題を考察した。 LETSの相互信用・分散発行方式の利点は,経済取引に必要とされる通貨バッファがマクロレベルでもミクロレベルでも必要ない点にあり,そのことは貨幣保蔵による有効需要の抑制を引き起こさないことを意味する。一方で、LETSは受領性が個人の相互信頼に基づくため,その流通範囲は相互信頼でつながれる範囲に制約される。流通範囲を拡張するには,コミュニティへの信頼,相互信頼の範囲を拡張する必要性があり,いかなるシステムやルールの導入が有効であるかが今後の検討課題として残されている。逆に、集中的発行通貨は流通範囲が広範であるが,貨幣保蔵による有効需要抑制という課題を持つ。 また,ランダムネットワークに基づくLETSにおけるマクロ的黒字残高=マネーサプライは売買による債権債務の相殺により長期的には残高0に収束するという直感に反して,逓減的に増大する。このメカニズムを解明し,そこからLETSと現金通貨に関するいくつかのインプリケーションを引き出し,検討を加えた。