- 著者
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西部 忠
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2003
研究代表者は『地域通貨のすすめ』(北海道商工会連合会,2004年)で,地域通貨の二大目的である「地域経済の活性化」と「地域コミュニティの活性化」を同時達成するため,社会福祉やボランティアのような非商業取引を商業取引が補完する地域通貨循環スキームとして「ダブル・トライアングル方式」を提唱した。この制度設計に基づく地域通貨流通実験が北海道苫前町で2004年11月22日から2005年2月20日まで行われ,その調査研究成果を西部忠編著『苫前町地域通貨流通実験に関する報告書』として今年度に発表した。そこでは,二つの研究手法を駆使して,地域通貨が実施される地域の特徴や背景を記述し,地域通貨の経済的効果を評価しようと試みた。一つは,数回にわたるインタビュー、2回のフォーカス・グループ・ディカッション、および、3回実施したアンケートの結果を利用する定性的分析であり,もう一つは,地域通貨の経済活性化効果を評価するために,ネットワーク理論を応用して流通ネットワーク分析である。この調査の結果,地域通貨の流通速度が法定通貨の6-7倍であることがわかり,経済活性化効果について顕著な有効性が確認された。また,ネットワーク分析により,個々の地域通貨の流通ネットワークの特徴,例えば、どの地区や主体が中心的役割を果たしているか,ボランティア活動はネットワークの形成にどの程度の影響を与えるかなどを明らかにした。これは、地域内部のミクロ主体レベルでの観察情報を提供するもので,人体に対するCTスキャン技術のような役割を果たす。こうした情報を定性的情報とともに利用することで、地域の経済面とコミュニティ面についての診断(「地域ドック」)を行うことが可能になり、それを元にして,経済的自立とコミュニティ的豊かさを備えるまちづくりのための処方箋が書けるものと期待できる。他方,地域通貨の経済思想,政策思想の研究も発表した。