著者
清田 恭平 吉居 華子 田野 恵三 大津山 彰 法村 俊之 渡邉 正己
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.36, 2007

p53遺伝子の機能は、ゲノム守護神として、DNA損傷時の細胞周期進行制御やアポトーシス誘導を制御し細胞ががん化する過程を抑制すると考えられているががん化への関与は明確でない。そこで、p53遺伝子欠失と細胞がん化の過程における様々ながん形質の発現動態を調べた。本研究では、p53遺伝子正常(p53<SUP>+/+</SUP>)及びノックアウト(p53<SUP>-/-</SUP>)のC57B系マウス胎児由来細胞を用いた。T75フラスコに10<SUP>6</SUP>細胞を植え込み5日毎に継代培養すると、p53遺伝子機能やX線照射の有無に関わらず、すべての細胞が自然に無限増殖能を獲得し不死化するが、p53<SUP>-/-</SUP>細胞だけが造腫瘍性を示すことが判った。このことは、p53機能が細胞の腫瘍化に密接に関連していることを示唆する。そこで、X線照射したp53<SUP>-/-</SUP>細胞におけるがん形質の発現動態を調べた。その結果、p53<SUP>+/+</SUP>細胞では、被ばくの有無にかかわらず継代初期から染色体の四倍体化が生じ、非照射細胞では40~41継代培養(P40~41)時に60%に達し安定して維持された。照射されたp53<SUP>+/+</SUP>細胞では四倍体化ののち三倍体化が起こり、その頻度は、P40~41に30%に達した。一方、p53<SUP>-/-</SUP>細胞では、照射の有無にかかわらず三倍体化が顕著で照射の有無に関わらず50~60%に達した。そこで、30継代時及び90継代時の細胞をヌードマウスに移植すると、p53<SUP>-/-</SUP>細胞は、すべて造腫瘍性を獲得したが、p53<SUP>+/+</SUP>細胞は、全く腫瘍を形成しなかった。生じた腫瘍由来細胞も移植前の細胞と同様に三倍体であることが分かった。これらの結果から、(1)染色体の三倍体化が細胞の腫瘍化に密接に関係し、p53機能は、(2)染色体の三倍体化を抑制することによって細胞の腫瘍化を抑制することが示唆された。