著者
吉岡 博人 上田 悦範 岩田 隆
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.333-339, 1982-06-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 11

バナナ果実の追熟過程におけるイソアミルアセテートの生合成経路の発達の様相を,生合成経路の代謝関連物質含量ならびに酵素活性の変化から明らかにするとともに,35℃で追熟した場合にみられる香気成分生成障害の原因を,その生合成経路の代謝変動の様子から究明した。(1) バナナ果実を20℃, 30℃, 35℃で追熟させたところ,20℃, 30℃では多くの揮発性成分が生成され,また多量のイソアミルアセテートが生成された。しかし35℃では果肉の軟化は急速に進むにもかかわらず,揮発性成分の生成は顕著に抑制された。(2) イソアミルアセテートの生合成経路に関与すると考えられるロイシン,α-ケトグルタール酸,イソアミルアルコール,酢酸,ATPならびにCoAの,追熟に伴う含量変化を20℃, 30℃, 35℃で調べたところ,ATPは各温度区とも含量低下を示したが,他の成分はすべて20℃および30℃では含量の増加を示した。しかし,35℃ではα-ケトグルタール酸,酢酸を除いて他の成分の含量増加は抑制された。(3) ロイシンがイソアミルアルコールまで代謝される経路に関与するロイシントランスアミナーゼ,α-ケトイソカプロン酸脱炭酸酵素,アルコール脱水素酵素,および酢酸をアセチルCoAに活性化の,さらにアセチルCoAとイソアミルアルコールからイソアミルアセテートを生成するのに関与するアセチルCoA合成酵素ならびにアシルCoA-アルコールトランスアシラーゼの活性変化を20℃, 30℃, 35℃で追熟した果実で調べたところ,20℃, 30℃では各酵素とも追熟に伴い活性の増加を示したが,35℃では増加が抑制された。またα-ケトイソカプロン酸脱炭酸酵素およびアシルCoA-アルコールトランスアシラーゼは緑熟果には活性がみられず,追熟過程でそめ活性が検出されるようになった。以上の結果からバナナ果実の追熟に伴い,α-ケトイソカプロン酸脱炭酸酵素およびアシルCoA-アルコールトランスアシラーゼの両酵素の活性が出現することが,追熟に伴ってイソアミルアセテートの生成が増大する主な要因と思われる。さらに,ロイシントランスアミナーゼなどの酵素活性の増大やロイシンおよび酢酸含量の増加もイソアミルアセテートの生成を促進する原因になるものと考えられる。また35℃ではこのような変化が著しく抑制されることが明らかとなった。