著者
大前 清嗣 小川 哲也 吉川 昌男 新田 孝作 大塚 邦明
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.915-921, 2013 (Released:2013-10-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

透析患者において高カリウム(K)血症は心臓突然死の危険因子と考えられている.一方,心疾患合併患者では低K血症が致死性不整脈の誘因とされている.今回われわれは透析患者における血清K(SK)と心血管死との関連をコホート研究により検討した.当院外来透析databaseに登録された症例を対象とした.対象症例について心血管死をend pointとし2010年10月まで追跡しCox比例ハザード法により生命予後関連因子を抽出した.対象を透析前SKで層別化(SK≦4.5, 4.5<SK≦5.0, 5.0<SK≦5.5, 5.5 mEq/L<SK)し,説明変数には層別化したSKのほか,年齢,性別,合併症,透析歴,透析前後の血圧,生化学,末梢血検査値を用いた.Database登録の309例中data不備を認める16例と転院により追跡不能となった33例を除外した.解析対象の260例は男性149名,女性111名,平均年齢68.8歳で透析期間は5.6年であった.原疾患はDMが89名,心疾患合併が97名で全体の透析前SKは4.97 mEq/Lであった.平均観察期間3.3年で心血管死は43名であった.抽出された予後悪化因子は高齢,長期透析,血液濾過の施行,糖尿病,心疾患の合併,SK低値,CRP高値であった.層別化したSKのうちSK≦5.0 mEq/Lの2群が予後不良と関連しHazard比はSK≦4.5 mEq/Lで6.377,4.5<SK≦5.0 mEq/Lで2.733であった.透析患者においてSK高値が予後良好と関連し透析前SK>5.0 mEq/Lに保つ必要性が示唆された.
著者
大前 清嗣 小川 哲也 吉川 昌男 佐倉 宏 新田 孝作
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.287-294, 2015 (Released:2015-05-28)
参考文献数
30

透析患者に広く使用されるRenin-Angiotensin系抑制薬 (RASI) のうちAngiotensin変換酵素阻害薬 (ACEI), AT1受容体拮抗薬 (ARB) と生命予後との関連を当院databaseにより検討した. 2006年4月以降databaseに登録された透析患者を対象とした. 対象の傾向スコア (PS) を算出し3群 (ACEI, ARB, 非RASI群) からPS近似例を抽出した. 疾患死をエンドポイントとした3群の生存曲線を作成し比較した. 対象の347例から31組93例が抽出, 3群間に有意差なく4.2年で全死亡30例, 心血管死19例であった. 全死亡はACEI群7例, ARB群14例, 非RASI群9例でACEI群が予後良好であったが心血管死は有意差を認めなかった. 透析患者においてACEIによる全死亡抑制を認めたがARBは予後に影響しなかった. 今後多施設での前向き研究が必要と考えられた.
著者
大前 清嗣 小川 哲也 吉川 昌男 新田 孝作
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.317-323, 2010-03-28

慢性透析患者において,心電図(ECG)上のST-T変化と心臓超音波検査(UCG)上の異常所見は,それぞれ独立して心不全死の予測因子となることが報告されている.今回われわれは,維持透析患者を対象に安静時ECG上のST-T変化に関連する因子を同定した.対象は,吉川内科小児科病院の外来透析患者のうち,6か月以上安定した透析が行われUCGを施行している149例(男性88例,女性61例)である.安静時ECG上のST-T変化の有無を目的変数に,左房径(LADs),左室拡張末期径(LVDd),左室後壁壁厚(PWT),左室短縮率(%FS),左室心筋重量(LVM)のほか,年齢,性別,原疾患(糖尿病DM,非糖尿病nonDM),冠動脈疾患(CAD)の合併,透析歴,血圧,透析間の体重増加量,生化学末梢血検査値,使用薬剤を説明変数に用い多変量解析を行った.UCGは透析後もしくは透析翌日午前に施行され,検査値については6か月間の透析前平均値を用いた.多変量解析はステップワイズ法による多重ロジスティック解析を用いた.特定されたST-T変化関連UCG異常について,ST-T変化の有無により2群に分類し,重回帰分析を用い各群のUCG異常に影響する因子の抽出を行った.平均年齢は66.7歳で,平均透析期間は14.4年であった.原疾患はDMが41例で,26例にCADの合併が認められた.UCG所見は,平均LADs 42.4 mm,LVDd 52.4 mm,PWT 10.8 mm,%FS 36.3%,LVM 224.4 gであった.内服治療は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬8例,アンジオテンシンII受容体拮抗薬103例,βもしくはαβ拮抗薬52例,カルシウム拮抗薬(CCB)116例であった.ST-T変化は79例に認められ,多重ロジスティック解析ではCADの合併,LADsおよびCCBの使用が関連因子であった.オッズ比は,それぞれ5.141,1.087,0.339であった.ST-T変化を有する症例ではLADsがLVMと正に相関し,左室肥大を反映する可能性が示唆された.