著者
吉川 貴史 齊藤 英治
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.745-749, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
18

電子の熱運動を介して温度勾配から電圧を生み出すゼーベック効果は,熱電変換技術の根幹を担ってきた.また近年,この電子スピン版であるスピンゼーベック効果が見いだされ,電子スピンの熱揺らぎを,スピン流を介して電圧に変換することも可能となった.しかしこれらの熱電現象は電子由来に制限されており,低温域では電子系のエントロピー凍結により抑制されてきた.本稿では最近我々が観測に成功した,固体中の核スピンを利用した熱電変換現象―核スピンゼーベック効果―について報告する.大きな核スピン(I=5/2)と強い超微細相互作用を示すMnCO3とPtの接合系において,極低温100mKまで増大する熱起電力を見いだし,その振る舞いが約30mKという小さなエネルギースケールで熱励起が可能な核スピンに由来することを示した.本実証により“核スピンの利用”という,低温域の熱利用技術に対する新しい視座が得られた.