著者
吉浦 禎二
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.1662-1673, 1970

我耳鼻咽喉科領域における上気道粘膜はその殆んどが線毛上皮細胞によって被覆され, その線毛運動により, 気道内の異物, 細菌等を常に除去せんとする重要な役割を演じている. 一方他の動物においては, 運動・栄養・循環・生殖等, 種によりそれぞれ異った機能を発揮している.<BR>形態学的には近年電子顕微鏡の発達にともないその微細構造は次第に解明されているが機能的観点から線毛の収縮および協調運動の機構などについては未解決の点が多く残されている.<BR>従って私は上気道粘膜の病態生理特に線毛運動機構に関して, 原生動物からる脊椎動物にいたる8種の動物の線毛運動様式と線毛装置の微細構造との関係を比較検討することにより, 形態と機能との間の関連性を追求することを目的として本研究を企図した.<BR>研究方法として, 線毛協調運動様式の観察には, 位相差顕微鏡下に16ミリcinecameraを使用し高速度撮影し, 線毛装置の微細構造はJEM-T5型電子顕微鏡下に観察しそれぞれ比較検討した.<BR>固有線毛の内部構造には殆んど差違は認められず, いわゆる「9+2」patternを示した. しかしながらbasal bodyおよびrootletには形態学的に著しい差違が認められた. すなわちbasal bodyに関してゾウリムシ, ナミウズムシにおいては線毛長軸に対して対称性であり線毛運動が可転性を有することから, このような形態は必要なことと思われた. その他の動物においては非対称性が明らかでeffective strokeの方向に屈曲していた. さらにbasal footが常にrecovery strokeの側に突出しているのが認められた. 一方rootletは様々な方向に走り且つこれを欠くものもあり単なる支持組織に過ぎないとの説を認める. basal footは隣接するbasal bodyとは結合していず, その外にbasal body間を結合する何物も見出し得なかった.<BR>以上のことから個々の線毛のkinetic centerはbasal bodyにあると考察したがmetachronalな協調運動を支配するものあるいはその伝播径路を解明することは困難であった.