著者
吉澤 悠喜 山下 和樹 岩井 信彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100880, 2013

【はじめに、目的】 自転車エルゴメーターは、ペダルの重さや回転数を変えることにより運動負荷量を調節できる。下肢の整形外科疾患において荷重制限の指示がなされている場合があり、体重計などで荷重値の測定は容易に行える。しかし、エルゴメーターにて下肢の運動を行う場合、足底にどの程度荷重されているか不明である。そこで今回、エルゴメーターの仕事量・回転数を変化させ足底にかかる荷重値を計測したところ、部分荷重期における患者の負荷設定を考慮する際の一助になる結果が得られた。若干の考察を加えてここに報告する。【方法】 対象者は健常男性10名で、年齢27.4±5.1歳、体重62.8±6.7kgである。自転車エルゴメーターはコードレスバイク65i(セノー株式会社製)を用いた。サドルは下死点のペダル上に足部を置き膝屈曲30°となる高さとした。足底にかかる荷重値の計測には両足部に靴式下肢荷重計(ANIMA社製、ゲートコーダMP-1000)を装着し、トークリップで足部を固定せず、ペダル上の足底位置は第2中足骨頭がペダルの中心に位置するように設置した。負荷設定は、仕事量を25w・75w・125w、回転数を20回転・50回転・80回転とし、各々を組み合わせた計9通りを実施、荷重値を計測した。なお、回転数の計測はメトロノームを設定し、その音に合わせて駆動させることにより調整した。ペダリング時間は各々30秒間とし、中間10秒間の荷重値を計測し、各対象者の利き足の荷重値を採用した。9通りのペダリング順は乱数表を用いてランダムに行い、各ペダリング間の休息は5分間とした。各々の負荷設定で計測された荷重値を記録するとともに、被験者毎の最大荷重値における体重比を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的・内容について説明し、本研究で得た情報は本研究以外には使用しないこと、拒否しても一切不利益が生じないことを説明し、同意を得た。【結果】 10名の被験者のうち体重比が最大であった症例の値のみ記載する。25w時、20回転で20.1%、50回転で26.1%、80回転で26.2%であった。75w時、20回転で35.4%、50回転で37.1%、80回転で51.1%であった。125w時、20回転で33.2%、50回転で56.1%、80回転で59.9%であった。 荷重値は、25w時、20回転で7.6±3.1kg、50回転で11.3±2.9kg、80回転で13.3±2.8kgであった。75w時、20回転で13.1±4.5kg、50回転で15.0±4.4kg、80回転で16.1±5.5kgであった。125w時、20回転で15.3±5.3kg、50回転で24.2±4.1kg、80回転で22.0±4.9kgであった。【考察】 エルゴメーターにおける仕事量は、ペダルの回転に対する接線方向に加わる力(回転トルク)と回転数によって求められる。よって、仕事量・回転数の変化に伴って回転トルクや足底にかかる荷重値も異なってくる。体重比において、上記結果のように体重比が1/3を超える設定は75w以上の時であり、中には1/2を越える者も存在していた。このことから、今回と同程度の体重であれば、部分体重負荷1/3荷重までと指示されている患者でも25w程度での設定ではエルゴメーターの使用ができる可能性が示唆される。また、体重比2/3を超える荷重値は存在しなかったことより、部分体重負荷2/3荷重以上が許可されている患者であれば125w程度の負荷設定でも使用できる可能性があることがわかった。ただし、これらはあくまで体重比であり、体重の違いによって比率が異なる。今回の被験者より体重が小さければ体重比は大きくなってしまうため、体重の考慮が必要である。またペダルから下肢の各部位へどのような力が加わっているのかということも考慮に入れる必要がある。本研究により健常男性がエルゴメーターを駆動した場合、どの程度足底に荷重されているかが明らかになったことで、整形外科疾患において早期からエルゴメーターを使用していくことへの一助になったと考える。 さらに今後は被検者数を増やし、また仕事量や回転数をより詳細に分割した設定で行うことで、その荷重値の傾向性を検証する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 自転車エルゴメーター駆動中の足底にかかる荷重値を知ることは、部分荷重期の患者にエルゴメーターを使用する際の負荷設定を考える上で、一つの指標になると考える。