著者
山下 和樹 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B4P2150, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】Pusher現象を有する脳血管障害患者の姿勢保持能力に対するアプローチとして、垂直指標と視覚的手がかりの有効性が提唱されている。しかし垂直指標1つの提示では体幹回旋位、体幹側屈位等でも垂直指標を視覚的手がかりとし、直立位から逸脱した姿勢を学習するため本来の効果が半減する可能性がある。そこで本研究では坐位体幹直立位にて、垂直指標を患者の前方に直列で2本提示し、その2本の垂直指標が重なる位置で姿勢を保つように指示することで、端坐位保持時間の延長・坐位保持姿勢の改善につながる可能性を考え、pusher現象を有する2症例でパイロット研究を行った。【方法】対象は、右視床出血発症28日後の60代男性(症例1)、および左内包後脚のラクナ梗塞発症32日後の80代男性(症例2)であった。両症例ともcontraversive pushing臨床評価スケールは4点で、端坐位保持時間は1分未満であった。この2名に対し垂直指標未提示(以下未提示)、垂直指標1本提示(以下1本提示)、垂直指標2本提示(以下2本提示)の3通りの方法をランダムに用いて、端坐位保持時間の計測と姿勢変化の観察を3日間行った。垂直指標は、1本提示時は患者から1m前方に、2本提示時は1m前方および2m前方に設置した。口頭指示として未提示時は「姿勢をまっすぐして転倒しないように」、1本提示時は「棒のようにまっすぐ姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」、2本提示時は「棒が重なって見える所で姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」と指示した。端坐位時、両手背を転倒する直前まで大腿部に接地し、上肢又は体幹の一部がベッド面に接地するまでの時間を理学療法施行前に計測した。各試行の計測順は乱数表を用いて行った。計測時、患者に不安を与えないよう後方にセラピストが位置し、安全に配慮して行った。【説明と同意】患者には本研究の目的・内容について説明し、本研究で得た情報は本研究以外には使用しないこと、拒否しても一切不利益が生じないことを説明し、同意を得た。【結果】計測初日の坐位保持時間は症例1では未提示25秒、1本提示41秒、2本提示49秒、症例2では、それぞれ23秒、44秒、55秒と2本提示時に端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。両症例とも、計測2日目、3日目は端坐位保持時間が延長し、未提示、1本提示、2本提示の順に延長する傾向は同様であった。姿勢観察では未提示時に体幹側屈位が著明にみられた。1本提示時は未提示時と比べ体幹側屈は軽度改善もしくは変化なく、体幹回旋の発生がみられた。2本提示時は未提示時・1本提示時と比べ体幹側屈、回旋の減少がみられた。両症例とも4日目以降は静的坐位で直立坐位保持が可能となった。【考察】本研究では未提示、1本提示、2本提示の順で端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。Karnath et al(2003)は、pusher現象例の視覚的垂直認知は正しくても、身体的垂直認知は非麻痺側に大きく傾いているため、両要素のギャップを埋め合わすために「押す」現象が生起する、としている。アプローチについては、垂直指標と視覚的手がかりの有効性に焦点が当てられており、症例に姿勢の認知的歪みを理解させること、視覚的に身体と環境の関係を認知させること、治療者によって視覚的手がかりを付与すること、その手がかりによって直立姿勢を学習することが重要であると述べている。しかし、1本提示では、頭頚部が床面に対し平行にある状態で体幹の側屈、回旋等が発生しても、その端坐位姿勢で視覚的に垂直位であると認識してしまう可能性が高く、それを口頭指示で矯正を図っても身体的垂直認知が障害されているため混乱を生じる可能性が高い。2本提示では、体幹直立位の状態で2本垂直指標が1つに重なる位置で姿勢を保つように提示することで、垂直指標が2本に見えれば姿勢が崩れていることを認識しやすくなり、誤った端坐位姿勢での学習を防ぐことができると考えられる。このため未提示・1本提示時に比べ2本垂直指標提示時の方が端坐位保持時間の延長に至ったものと思われる。【理学療法学研究としての意義】Pusher現象に対するアプローチとして体性感覚入力や視覚刺激入力を用いたアプローチ等が挙げられ臨床的にはいずれもある程度効果があるとされているが、どちらが有効な手段であるかは不明である。今回のパイロット研究では症例数は少なかったものの、1本提示、2本提示になるに従い、端坐位時間の延長傾向、姿勢改善がみられた。今後さらに症例を重ね2本垂直指標提示での坐位保持能力の効果を検討していきたい。
著者
岩井 信彦 山下 和樹 長尾 賢治 大川 あや
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100164-48100164, 2013

【はじめに】ADLの回復過程において潜在的な活動能力と実際の生活の中で行っている活動レベルに差が生じることを経験する。前者は「できるADL」後者は「しているADL」と称され、この二面性は「リハ総合実施計画書」にも評価項目として組み込まれている。今回、脳卒中と大腿骨頚部骨折患者のいわゆる「しているADL」と「できるADL」を機能的自立度評価法(FIM)にて評価し、双方の得点の比較からADLの二面性、格差発生の特性を調査し考察を加えたので報告する。【対象と方法】2005 年4 月から2012 年3 月までに回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者391 例、大腿骨頚部骨折患者229 例を対象とした。実行状況ADL(実行ADL)をFIMで評価した。療法士の監視下のもと理学療法室など特定の環境で遂行可能なADLを潜在的活動能力(潜在的ADL)とし同様にFIMで評価した。得点の差の検定はWilcoxonの符号順位和検定を用い、有意水準を5%未満とした。ADL難易度はRasch分析にて求めた。Rasch分析は数値で表された順序尺度を間隔尺度に変換し、課題の難易度を数値化する解析手法である。また、FIM運動13 項目に関し得点に差のあった症例数の全症例に対する割合(格差率)を求めた。【結果】脳卒中は男性189 名、女性202 名、平均年齢74.8 ± 11.5 歳、脳梗塞258 例、脳出血110 例、くも膜下出血23 例、発症から入棟まで44.0 ± 16.8 日、入院時FIM運動13 項目合計点は潜在的ADL 43.4 ± 26.0 点、実行ADL 41.7 ± 25.6 点であった。大腿骨頚部骨折は男性44 名、女性185 名、平均年齢80.9 ± 10.7 歳、内側骨折132 例、外側骨折97 例、発症から入棟まで35.3 ± 14.2 日、潜在的ADL 51.1 ± 22.0 点、実行ADL 49.5 ± 22.2 点であった。脳卒中FIM得点は運動13 項目何れも潜在的ADLの方が高く、統計的にも有意差があった。難易度は実行ADLでは低い順に食事、ベッド移乗、整容、排便コントロール、排尿コントロール、上半身更衣、トイレ移乗、トイレ動作、下半身更衣、歩行/車椅子、清拭、浴槽移乗、階段で、潜在的ADLではベッド移乗と整容、排尿コントロールと上半身更衣の順位が入れ替わっていた。大腿骨頚部骨折の得点も同様に何れも潜在的ADLの方が高く、統計的にも有意であった。難易度は実行ADLでは食事、整容、上半身更衣、排便コントロール、ベッド移乗、排尿コントロール、トイレ移乗、トイレ動作、下半身更衣、歩行/車椅子、清拭、浴槽移乗、階段の順に高かった。潜在的ADLの順位も同様であった。脳卒中ADL格差率は食事6.4%、整容10.0%、清拭7.4%、上半身更衣14.6%、下半身更衣9.2%、トイレ動作10.0%、排尿コントロール3.3%、排便コントロール2.0%、ベッド移乗7.9%、トイレ移乗9.5%、浴槽移乗3.8%、歩行/車椅子9.7%、階段9.5%であった。格差率が高かった上半身更衣、整容、トイレ動作、歩行/車椅子ではFIM評価7 段階のうち3 で格差が発生している症例が多かった。大腿骨頚部骨折の格差率は食事2.6%、整容11.4%、清拭8.3%、上半身更衣11.4%、下半身更衣8.3%、トイレ動作8.3%、排尿コントロール4.4%、排便コントロール3.5%.ベッド移乗8.7%、トイレ移乗8.7%、浴槽移乗4.4%,歩行/車椅子11.8%、階段6.1%であった。格差率が高かった歩行/車椅子では評価段階2 及び3、整容では2、上半身更衣では4 及び5 で格差が多く発生していた。【考察】脳卒中ADLに関しGrangerらはRasch分析にて難易度を求め、階段、浴槽移乗、歩行/車椅子が最も高く、食事、整容が最も低かったと報告している。本調査でも類似した結果であった。脳卒中と大腿骨頚部骨折の難易度序列の差はベッド移乗、整容、排便コントロール、排尿コントロール、上半身更衣で見られたが、これは脳卒中では片側上下肢、大腿骨頚部骨折では一側下肢の障害という障害構造の違いによって生じたものと思われる。岩井らは脳卒中ADLに関し下半身更衣、上半身更衣、トイレ動作、トイレ移乗、ベッド移乗、整容の難易度は接近していたが、大腿骨頚部骨折ではこの傾向はなかったと報告している。脳卒中では格差率の高かったADLを中心に実行ADLと潜在的ADLで難易度序列が入れ替わったもの、大腿骨頚部骨折では序列に変化がなかったがこのことが要因と考える。高難易度のADLが必ずしも格差率の高かったADLではなかった。例えば整容や上半身更衣など難易度が低くても格差率は高かった。格差率の高低は本人の意欲や介助技術の問題、物的な環境の問題など様々な要因で生じているものと思われた。【倫理的配慮】当該病棟では主治医、担当療法士が患者・家族に対し「リハ総合実施計画書」を提示し、内容や個人情報提供に関する同意を得ている。また、本調査は当該医療機関倫理委員会より承認を得ている。【理学療法学研究としての意義】ADL構造、難易度序列、格差発生の特性を知ることで、習得が遅れているADLの確認や治療プログラムの立案を的確に行うことが期待できる。
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.101, 2009

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。<BR>【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。<BR>【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。<BR>【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。<BR>【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
吉澤 悠喜 山下 和樹 岩井 信彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100880, 2013

【はじめに、目的】 自転車エルゴメーターは、ペダルの重さや回転数を変えることにより運動負荷量を調節できる。下肢の整形外科疾患において荷重制限の指示がなされている場合があり、体重計などで荷重値の測定は容易に行える。しかし、エルゴメーターにて下肢の運動を行う場合、足底にどの程度荷重されているか不明である。そこで今回、エルゴメーターの仕事量・回転数を変化させ足底にかかる荷重値を計測したところ、部分荷重期における患者の負荷設定を考慮する際の一助になる結果が得られた。若干の考察を加えてここに報告する。【方法】 対象者は健常男性10名で、年齢27.4±5.1歳、体重62.8±6.7kgである。自転車エルゴメーターはコードレスバイク65i(セノー株式会社製)を用いた。サドルは下死点のペダル上に足部を置き膝屈曲30°となる高さとした。足底にかかる荷重値の計測には両足部に靴式下肢荷重計(ANIMA社製、ゲートコーダMP-1000)を装着し、トークリップで足部を固定せず、ペダル上の足底位置は第2中足骨頭がペダルの中心に位置するように設置した。負荷設定は、仕事量を25w・75w・125w、回転数を20回転・50回転・80回転とし、各々を組み合わせた計9通りを実施、荷重値を計測した。なお、回転数の計測はメトロノームを設定し、その音に合わせて駆動させることにより調整した。ペダリング時間は各々30秒間とし、中間10秒間の荷重値を計測し、各対象者の利き足の荷重値を採用した。9通りのペダリング順は乱数表を用いてランダムに行い、各ペダリング間の休息は5分間とした。各々の負荷設定で計測された荷重値を記録するとともに、被験者毎の最大荷重値における体重比を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的・内容について説明し、本研究で得た情報は本研究以外には使用しないこと、拒否しても一切不利益が生じないことを説明し、同意を得た。【結果】 10名の被験者のうち体重比が最大であった症例の値のみ記載する。25w時、20回転で20.1%、50回転で26.1%、80回転で26.2%であった。75w時、20回転で35.4%、50回転で37.1%、80回転で51.1%であった。125w時、20回転で33.2%、50回転で56.1%、80回転で59.9%であった。 荷重値は、25w時、20回転で7.6±3.1kg、50回転で11.3±2.9kg、80回転で13.3±2.8kgであった。75w時、20回転で13.1±4.5kg、50回転で15.0±4.4kg、80回転で16.1±5.5kgであった。125w時、20回転で15.3±5.3kg、50回転で24.2±4.1kg、80回転で22.0±4.9kgであった。【考察】 エルゴメーターにおける仕事量は、ペダルの回転に対する接線方向に加わる力(回転トルク)と回転数によって求められる。よって、仕事量・回転数の変化に伴って回転トルクや足底にかかる荷重値も異なってくる。体重比において、上記結果のように体重比が1/3を超える設定は75w以上の時であり、中には1/2を越える者も存在していた。このことから、今回と同程度の体重であれば、部分体重負荷1/3荷重までと指示されている患者でも25w程度での設定ではエルゴメーターの使用ができる可能性が示唆される。また、体重比2/3を超える荷重値は存在しなかったことより、部分体重負荷2/3荷重以上が許可されている患者であれば125w程度の負荷設定でも使用できる可能性があることがわかった。ただし、これらはあくまで体重比であり、体重の違いによって比率が異なる。今回の被験者より体重が小さければ体重比は大きくなってしまうため、体重の考慮が必要である。またペダルから下肢の各部位へどのような力が加わっているのかということも考慮に入れる必要がある。本研究により健常男性がエルゴメーターを駆動した場合、どの程度足底に荷重されているかが明らかになったことで、整形外科疾患において早期からエルゴメーターを使用していくことへの一助になったと考える。 さらに今後は被検者数を増やし、また仕事量や回転数をより詳細に分割した設定で行うことで、その荷重値の傾向性を検証する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 自転車エルゴメーター駆動中の足底にかかる荷重値を知ることは、部分荷重期の患者にエルゴメーターを使用する際の負荷設定を考える上で、一つの指標になると考える。
著者
村尾 浩 岩井 信彦
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.90-95, 2018-10-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
15

【目的】本研究の目的は専門必修科目から算出したGPA(GPA-RS)でドロップアウト学生を識別できるかを明らかにすること.【対象と方法】対象を卒業群145 名とドロップアウト群34 名に分け,セメスター(以下,セメ)ごとのGPA-RS を比較した.ROC 曲線から信頼度を求めた【結果】卒業群,ドロップアウト群のGPA-RS(点)(中央値, 四分位範囲)は,1 セメ;2.17(1.92-2.42),1.75(1.50-2.25),2 セメ;2.36(2.10-2.55), 1.82(1.63-2.10),3 セメ;2.14(1.86-2.50),1.07 (0.21-1.50),4 セメ;2.22(1.91-2.61),0.91(0.57-1.78),5 セメ;2.54(2.31-2.77),1.77(1.35-2.23),6 セメ;2.50 (2.25-2.75),1.63(1.10-2.27)で,各セメで卒業群が有意に高値であった.信頼度(%)は75.8~91.0%であった.
著者
岩井 信彦 青柳 陽一郎 白石 美佳 大川 あや 清水 裕子 柿本 祥代
出版者
神戸学院大学
雑誌
神戸学院総合リハビリテーション研究 (ISSN:1880781X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.75-81, 2007-01
被引用文献数
1

回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中患者51例の日常生活活動(Activities of Daily Living ; ADL)を機能的自立度評価法(Functional independence measure ; FIM)を用いて、実際の生活の中で行っている活動「しているADL」を評価し、同時に理学療法室や作業療法室など限られた環境での潜在的な活動「できるADL」を評価し、その得点差の状況を比較検討した。その結果、入院時、低FIM群では更衣上半身、更衣下半身、トイレ動作で得点差が大きかった。一方、高FIM群では階段昇降、歩行で差が大きかった。さらにADL項目ごとの得点と「しているADL」と「できるADL」との得点の関係において、低FIM群ではその差は確認できなかったが、高FIM群においては得点が高いADLほど得点差が小さいという相関が確認された。このことから回復期脳卒中患者の「できるADL」と「しているADL」の格差の特性を知り、医療チーム全員が格差の早期発見と原因の解明に取り組んでいくことが重要であると思われた。