- 著者
-
吉田 俊明
- 出版者
- 一般社団法人 室内環境学会
- 雑誌
- 室内環境 (ISSN:18820395)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.2, pp.141-154, 2010 (Released:2012-06-01)
- 参考文献数
- 48
- 被引用文献数
-
1
α-ピネンは,多くの脂肪族及び芳香族炭化水素と同様に日本の住宅内の空気汚染に関与する主要な化学物質である.本研究では,α-ピネンの2つの異性体(+)-及び(-)-α-ピネンのラットにおける体内動態をそれぞれ薬物動力学的に解析し,ヒトにおける経気道吸収量を外挿した.ラットを入れた閉鎖系曝露装置内に一定量のα-ピネンを注入後気化させ,ラットへの吸入による装置内濃度推移を調べ,薬物動力学的に解析した.得られた結果から,一定濃度のα-ピネンに一定時間曝露されたラットにおける吸収量を推定したところ,異性体間で差は認められなかった.ラットにおける炭化水素類の経気道吸収量について過去に我々が得た結果と比較すると,同一の曝露濃度下においてα-ピネンはn-ヘキサン,n-デカン,トルエン,キシレン,エチルベンゼン,スチレンなどよりも吸収されやすく,1,2,4-トリメチルベンゼンと同程度であると推定された.ラットから得た結果及び日本の住宅における各物質の室内濃度に関する過去の調査結果をもとに,居住者(体重60 kg)におけるα-ピネンおよび各炭化水素類の吸収量を推定した.16時間の在宅時間中のα-ピネン吸収量(住宅内濃度中央値4.4 μg/m3において31 μg)は,トルエンに次いで多かった.また,各物質による空気汚染の著しい住宅居住者のα-ピネン吸収量(住宅内濃度1.8 mg/m3において13 mg)は他の物質の吸収量よりもはるかに多く,米国環境保護庁(EPA)の提案するα-ピネンの無毒性量(NOAEL)から算出した耐容一日摂取量(TDI)と同レベルであった.