著者
川上 裕司 関根 嘉香 木村 桂大 戸高 惣史 小田 尚幸
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-30, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
20

自分自身が皮膚から放散する化学物質によって,周囲の他人に対してくしゃみ,鼻水,咳,目の痒みや充血などのアレルギー反応を引き起こさせる体質について,海外ではPATM(People Allergic to Me)と呼ばれ,一般にも少しずつ知られてきている。しかしながら,日本では殆ど一般に認知されておらず,学術論文誌上での報告も見当たらない。著者らはPATMの男性患者(被験者)から相談を受け,聞き取り調査,皮膚ガス測定,着用した肌着からの揮発性化学物質測定,鼻腔内の微生物検査を実施した。その結果,被験者の皮膚ガスからトルエンやキシレンなどの化学物質が対照者と比べて多く検出された。また,被験者の皮膚から比較的高い放散量が認められたヘキサン,プロピオンアルデヒド,トルエンなどが着用後の肌着からも検出された。被験者の鼻腔内から分離された微生物の大半は皮膚の常在菌として知られている表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)であった。分離培地上でドブ臭い悪臭を放つ放線菌(Arthrobacter phenanthrenivorans)が分離されたことはPATMと何か関連性があるかもしれない。また,浴室や洗面所の赤い水垢の起因真菌として知られている赤色酵母(Rhodotorula mucilaginosa)がヒトの鼻腔内から分離されたことは新たな知見である。この結果から,PATMは被験者の思い込みのような精神的なものではなく,皮膚から放散される化学物質が関与する未解明の疾病の可能性が示唆された。
著者
杉田 収 中川 泉 濁川 明男 曽田 耕一 室岡 耕次 坂本 ちか子
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.137-145, 2007-12-01 (Released:2012-10-29)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

上越市立小学校の全児童(6才~12才)12,045名を対象に, 化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivity:MCS)様症状を示す児童数を調べるアンケート調査を実施した。またMCSとの関連性が注目されている花粉症, アレルギー,「特に嫌いな臭い」を持つ児童数も合わせて調査した。調査票の回収数は10,348名分(回収率85.9%)であった。調査票で尋ねたMCS様症状は, 厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班によるMCSの診断基準に記載された症状を, 児童の保護者が回答しやすい症状表記に改変して尋ねた。その結果MCS様症状を示す児童数は979名で回答児童の9.5%であった。また花粉症は19.3%, 花粉症を含むアレルギーは47.6%, 「特に嫌いな臭い」を持つ児童は32.7%であった。MCSはアレルギーとは異なると考えられているが, MCS様症状を示す児童でアレルギーを持つ児童は63.7%であった。一方MCS様症状を示さない児童でアレルギーを持つ児童は46.3%で両児童群に有意の差があった。同様にMCS様症状を示す児童は「特に嫌いな臭い」を60.5%が持ち, その症状を示さない児童は30.6%であり, 同じく有意の差があった。MCS様症状を示す児童, アレルギーを持つ児童, 及び「特に嫌いな臭い」を持つ児童の割合は, いずれも高学年になるほど上昇していたことから, 小学校児童の高学年ほど化学物質に敏感になっていると考えられた。
著者
永吉 雅人 杉田 収 橋本 明浩 小林 恵子 平澤 則子 飯吉 令枝 曽田 耕一 室岡 耕次 坂本 ちか子
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.97-103, 2013 (Released:2013-11-25)
参考文献数
7

上越市立の全小学校(新潟県)児童を対象に,化学物質過敏症(multiple chemical sensitivity: MCS)様症状に関するアンケート調査が2005年7月に実施されている。今回,その調査から5年経過した2010年7月,実態の時間的推移を把握するため,対象を市立の全小中学校の児童・生徒に拡げてアンケートの再調査を実施した。また今回新たに就寝時刻についても合わせて調査した。アンケートの有効回答数は14,024名分(有効回答率84.0%)であった。調査の結果,14,024名の回答児童・生徒中MCS様症状を示す児童・生徒は1,734名(12.4%)であった。今回の調査で主に,次の3つのことが明らかとなった。1. 小学1年生から中学3年生へ学年が進むに伴い,MCS様症状を示す児童・生徒の割合が増加傾向にあった。2. 小学生全体のMCS様症状を示す児童の割合は,今回調査した小学生の方が5年前に比べて大きくなっていた。3. 小学3年生から中学3年生までのMCS様症状を示す児童・生徒はMCS様症状を示していない児童・生徒より就寝時刻が遅かったことが明らかとなった。
著者
大貫 文 齋藤 育江 多田 宇宏 保坂 三継 中江 大
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.43-50, 2011 (Released:2012-06-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

本研究は,平成17年及び平成18年に,東京都内の26オフィスビルにおいて,空気中のたばこ煙由来化学物質濃度を測定した。空気の採取は,(a)喫煙室,(b)喫煙室近傍の非喫煙場所,(c)事務室等の非喫煙室で行った。測定化学物質は,ニコチン,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,アセトン,プロピオンアルデヒド,トルエン,ベンゼン,浮遊粉じん(PM)及び一酸化炭素(CO)であった。調査の結果,ニコチン濃度の最大値は,(a)267 μg/m3,(b)16.7 μg/m3,(c)1.2 μg/m3,検出率は(a)100%,(b)38%,(c)4%であった。非喫煙場所からニコチンが検出された原因としては,たばこ煙が喫煙室から漏れたことや,喫煙者に付着し喫煙室外へ運ばれた可能性等が考えられた。PM及びCO濃度とニコチン濃度との関連について,喫煙室においては,比較的強い相関が見られ,PM及びCOの濃度を指標として,室内空気の清浄化を図ることが可能と推察された。一方,喫煙室近傍の非喫煙場所においては,喫煙室と異なり相関が弱く,PM及びCOの濃度からニコチン濃度を推測することが困難であることが判明した。
著者
高橋 万葉 関根 嘉香 古川 英伸 浅井 さとみ 宮地 勇人
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-22, 2013 (Released:2013-06-01)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

室内空気中のアセトアルデヒドの発生源および発生機構については不明な点が多い。本研究では,これまで考慮されてこなかったヒト皮膚表面から放散するアセトアルデヒドの室内空気中濃度に及ぼす影響について,パッシブ・フラックス・サンプラー法による健常人ボランティアを対象とした放散フラックスの実測に基づき検討した。その結果,ヒト皮膚由来のアセトアルデヒドの放散速度は,飲酒後の呼気に由来するアセトアルデヒドの放散速度よりも大きく,呼気よりも重要な発生源であることがわかった。居室の在室者1名を想定した場合,皮膚由来のアセトアルデヒドは,室内濃度指針値レベル(48 μg m-3)に対しては0.87~2.3 %の寄与であったが,飲酒を伴う場合は居室の臭気源になる可能性が示唆された。在室者が複数いる場合には,皮膚からの放散速度は無視できないほど大きな寄与を示す可能性があり,皮膚ガスは新たに着目すべき発生源の一つとなる可能性が示唆された。
著者
笈川 大介 高尾 洋輔 村田 真一郎 竹内 弥 下山 啓吾 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.113-121, 2011 (Released:2012-02-24)
参考文献数
15
被引用文献数
3

東日本大震災により多くの住民が避難生活を余儀なくされている。避難者の生活を一時的に安定させるため,約72,000戸の応急仮設住宅(以下,仮設住宅)が宮城県,福島県,岩手県などに建設されている。一方,国外の災害において,仮設住宅に避難した住民が高濃度ホルムアルデヒド曝露により健康被害を受けた事例がある。宮城県では国土交通省の指示に基づき,仮設住宅の供給メーカーに対して1発注につき1戸(50~60戸に1戸)の割合で住宅性能表示制度に定める特定測定物質5物質(ホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,エチルベンゼンおよびスチレン)の室内濃度測定を課し,仮設住宅の空気性能の管理に務めている。しかしながら法定5物質以外の物質が室内空気を汚染する可能性があり,詳細な化学物質調査が必要である。そこで筆者らは,宮城県の協力のもと,2011年6月20日に宮城県内1地区の仮設住宅5戸,6地点を対象に室内空気中化学物質濃度の現地調査を行った。対象物質はアルデヒド・ケトン類3物質,揮発性有機化合物43種類およびTVOC(Total Volatile Organic Compounds)濃度とした。その結果,法定5物質を含む室内濃度指針値の設定されている物質は,測定点全てにおいて指針値以下の濃度レベルであった。しかしTVOC濃度は1700~3000μg/m3で暫定目標値の4倍~7.5倍であり,指針値の設定されていない化学物質の寄与が高かった。
著者
大貫 文 菱木 麻佑 斎藤 育江 保坂 三継 中江 大
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.15-25, 2015 (Released:2015-06-01)
参考文献数
29

室内で燃焼させて使用する線香類について,燃焼時に放出される化学物質を分析し,線香類を使用した際に推定される室内空気中化学物質濃度を算出した。方法は,市販の線香類12試料を燃焼させ,その煙を空気採取用バッグに採取し,バッグ内の揮発性有機化合物類,アルデヒド類及び有機酸類の濃度を測定した。その結果から,試料重量当たり及び燃焼時間当たりの物質放出量を求め,室内空気中の有害物質等濃度を推定した。検出されたのは48物質で,アセトアルデヒド,イソプレン,酢酸,アクロレイン及びベンゼン等の放出量が多かった。48物質合計値の6割以上を有機酸類が占めた試料も見られた。同じ銘柄で煙の量が異なる製品の放出量(μg/h)を比較した結果,煙が「ほとんどない」と標榜していた試料における48物質の合計放出量は「ふつう」の試料の約25%で,なかでも,酢酸及びホルムアルデヒドの放出量が少なかった。また,主に室内で使用する9試料を1時間燃焼させた後の空気中有害物質濃度を推定した(室内容積20 m3,換気回数0.5回/時)。主な物質の濃度範囲は,ベンゼンが11~77 μg/m3,1,3-ブタジエンが4.8~14 μg/m3,アセトアルデヒドが22~160 μg/m3で,アセトアルデヒドについては,6試料が厚生労働省による室内空気中濃度の指針値を超過すると推定された。
著者
柳 宇
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.111-116, 2008-12-01 (Released:2012-10-29)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

日本国民の1/3が何らかのアレルギーに罹患していることが知られている。アレルギーを引き起こす原因物質であるアレルゲンには様々のものがあり, その1種としてかびが挙げられる。かびに対しては環境基準を基に規制する必要があるが, 殆どのかびに関する“量一反応関係”が把握されていないため, 健康影響を基に室内かびに関する基準を制定することは難しいのが現状である。本報では, かびによる人の健康への影響, かびの健康リスクの概念とその概要を紹介した上で, 環境基準の制定方法とかびに関する基準の現状について述べる。
著者
福冨 友馬 安枝 浩 中澤 卓也 谷口 正実 秋山 一男
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.87-96, 2009 (Released:2012-06-01)
参考文献数
33
被引用文献数
2

本稿では,ハウスダスト中のダニと昆虫のアレルゲンとヒトのアレルギー疾患の関係を解説した。ハウスダストは多くの患者にとってアレルギー疾患の発症原因でありかつ増悪因子である。しかし,ハウスダストは極めて多種のアレルゲンの混合物であり,家屋により優位なアレルゲン種も異なり,個々の患者が影響を受けているアレルゲンは異なっている。ダニアレルゲンは,本邦においても国際的にも最も重要な気管支喘息,アレルギー性鼻炎の原因アレルゲンである。多くの研究が,室内環境中のダニアレルゲン量の増加が,喘息の発症と増悪の原因であることを示してきた。国際的にはゴキブリアレルゲンはダニと同等に重要な室内環境アレルゲンと考えられている。しかしながら本邦の室内環境では,ゴキブリアレルゲンはほとんど検出されず,ゴキブリ感作率も低い。むしろ,本邦の室内塵を調査するとチャタテムシ目や双翅目,鱗翅目などのほうが頻繁に検出され,本邦ではこれらの昆虫の方が重要性が高いと考えられている。
著者
溝内 重和 市場 正良 宮島 徹 兒玉 宏樹 高椋 利幸 染谷 孝 上野 大介
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.69-79, 2014 (Released:2014-12-01)
参考文献数
30

佐賀市内の小学校(35校70教室)を対象に,室内環境における未規制VOCsを測定した(2011~2013年)。化学分析の結果,すべての教室から未規制VOCsが検出され,検出された未規制VOCsの中では,2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H:0.75-160 μg/m3)が最も高濃度でかつ高頻度(100%)で検出された。続いて,グリコールエーテル類(GEs:nd-250 μg/m3),テキサノール類(Texanols:nd-150 μg/m3)が高濃度かつ高頻度(約80%)で検出された。高い濃度と検出率から,小学校室内環境におけるこれら物質の幅広い用途が示唆された。教室種間の濃度差を比較したところ,2E1Hはパソコン室がいくつかの教室(一般教室,理科室)より有意に高い傾向(p< 0.05)がみられたが,GEsは教室間での差は見られなかった(体育館を除く)。検出された濃度をLowest concentration of interest(LCI)と比較したところ,それらのハザードインデックス(HI)は1以下であった。一方で,本調査で得られた一部の教室における未規制VOCs濃度は,学校環境における2E1Hがアレルギー発症の報告値に近く,またGEs濃度範囲は子供を対象とした疫学調査におけるアレルギー疾患と関係が見られた濃度範囲と同程度であった。今後の小学校室内環境における未規制VOCsの濃度低減が望まれる。
著者
二科 妃里 杉山 紀幸 鈴木 昭人 成田 泰章 野崎 淳夫
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.15-25, 2012 (Released:2012-06-01)
参考文献数
12

近年,トイレ内臭気物質汚染の対策製品が数多く市販されているが,これらの製品性能を求めるにはトイレ内臭気物質汚染を再現する新たな技術が要求される。ヒトの屎尿排泄物は微小熱源でもあるため,屎尿排泄物から臭気物質は便器を経由して上昇拡散する。この場合,臀部や太ももの間から臭気物質は漏洩し,トイレ空間を汚染する。そのため,便器からの漏洩臭気物質による室内空気汚染を如何に再現するかが一つの課題であった。そこで,本研究では便器からの臭気物質発生法についての新たな提案と検証を行うものである。すなわち,1)排泄時の屎尿排泄物の臭気物質発生特性を有する「擬似汚物」の開発を行い,次に2)定常発生が行える「臭気ガス定常発生装置」を作製し,最後に3)非排泄時の臭気物質発生を再現する「臭気物質発生源シール」を作製した。実験的検証の結果,1)スポンジ,粘土素材によって作製した擬似汚物は,排泄時のアンモニア発生特性を再現できる。また,本擬似汚物と「臭気物質放散面積調整器」を便器に設置したところ,臭気物質汚染濃度は実際のトイレ汚染の傾向を示すものの,多少低めの値を示した。本手法は脱臭便座や消臭剤などの対策製品の性能試験に適応することできる。2)臭気ガス定常発生装置では,アンモニア濃度を長時間安定的に保持することができ,本手法は脱臭便座などの試験法に適している。3)非排泄時では便器付着物による汚染が問題となるが,「臭気物質発生源シール」でこの汚染が再現できる可能性がある。
著者
塚原 伸治 中島 大介 藤巻 秀和
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-8, 2010 (Released:2012-06-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

近年,胎児や小児に対する環境リスクの増大が懸念され,環境中の化学物質に対する子供の健康影響について関心が払われている。発達途上にある胎児や小児の脳は性的に分化する。発達期の精巣から分泌されたテストステロンの働きは脳の性分化にとって重要である。成人男性や成熟雄ラットの血中テストステロン濃度はトルエン曝露により低下する。我々は,発達期のラットの血中テストステロン濃度がトルエン曝露によって低下することを明らかにした。また,テストステロンレベルの低下は,精巣のテストステロン産生に関与する酵素である3β-HSDの発現量の減少が一原因であることを示した。性分化した脳には,構造の性差がみとめられる部位(性的二型核)が存在する。ラットの性的二型核の一つであるSDN-POAの体積とニューロン数は雄において雌よりも優位である。最近の我々の研究から,発達期にトルエンを曝露した成熟雄ラットのSDN-POAの体積が正常雄ラットよりも縮小していることが示唆された。本稿では,我々の研究知見をふまえて,脳の性分化におよぼす発達期トルエン曝露の影響とその作用機序について論じる。
著者
原 邦夫 森 美穂子 石竹 達也 原田 幸一 魏 長年 大森 昭子 上田 厚
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境学会誌
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.97-103, 2007
被引用文献数
2

2002年2月に校舎の改装工事の終わった小学校の教室にただちに入室した小学生女子が化学物質過敏症を呈した。転校後に症状が改善したため,教室内空気質が主な原因とみられた。本研究の目的は,ホルムアルデヒドおよびVOCs濃度の経時変化の特性を明らかにし,学校の改装についての改善策を示すことである。<BR>我々は対象の校舎改装後小学校の教室内のホルムアルデヒドおよびVOCsの気中濃度を2002年の3月から2か月ごとに2年間測定した。アルデヒドは2,4-DNPH捕集-HPLC法,7VOCs成分(日本の厚生労働省が規制している11成分の内のトルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレン,<I>p</I>-ジクロロベンゼン,テトラデカンおよびフタル酸-<I>n</I>-ブチル)はTenaxTA捕集-加熱脱着-GC/MS法を用いた。総VOCs濃度はトルエン濃度換算して求めた。対象の教室の総VOCs濃度は,外気の濃度の数倍であり,教室内にVOCsの発生源があったことを示唆した。また,2年間の結果は物理化学的な性質に応じてホルムアルデヒドおよびVOCs濃度の経時変化は3様に分かれることを示した。すなわち,(1)1年目の夏に最高濃度を示し急激に減衰した物質として,トルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレン,(2)2年目の夏にのみ高濃度を示した物質として,ρ-ジクロロベンゼン,(3)夏に1年目および2年目ともに高濃度を示す二峰性の濃度変化を示した物質として,ホルムアルデヒド,テトラデカン,フタル酸ジ-<I>n</I>-ブチル,に分類された。これらの結果は,塗料に含まれるトルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレンは最初の夏で急速に揮発し,家具や内装材に含まれるホルムアルデヒドおよびフタル酸ブチルは低濃度ではあるが高温多湿の夏に毎年揮発することを示した。以上のことから,我々は学校での改装工事は少なくとも休みの前半に行い,とくに暑い夏に揮発させることを推薦した。
著者
東 賢一
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.113-120, 2018 (Released:2018-08-01)
参考文献数
35

1970年に制定された建築物衛生法の二酸化炭素の環境衛生管理基準は,1000 ppmを超えると倦怠感,頭痛,耳鳴り,息苦しさ等の症状が増加することや,疲労度が著しく上昇することに基づき定められたものである。二酸化炭素に関する近年の複数のエビデンスが,500~5000 ppmの範囲における二酸化炭素濃度の上昇と生理学的変化(血液中の二酸化炭素分圧や心拍数の上昇等)を確認している。また,1000 ppm程度の低濃度域におけるシックビルディング症候群(SBS)関連症状については,多くの疫学研究で報告されている。ヒトにおける生理学的変化は二酸化炭素によるものと考えられるが,低濃度域におけるSBS症状については,他の汚染物質との混合曝露による影響の可能性が高いと考えられる。近年,1000 ppm程度の二酸化炭素に短時間曝露した際の二酸化炭素そのものによる生産性(意思決定能力や問題解決能力等)への影響が示唆されており,このような影響は社会経済への影響が懸念されることから,慎重な対応が必要であると考えられる。建物内の二酸化炭素の室内濃度を1000 ppm以下に抑えることで,SBS症状や生産性への影響を防止できる。大気中の二酸化炭素濃度が上昇し続けているが,地球温暖化のみならず,室内の二酸化炭素濃度の維持管理のためにも大気中二酸化炭素濃度の低減に関する早急な対策が必要である。
著者
林 大貴 長岡 優輝 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-24, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
17

メタノールはこれまで生活環境中の空気汚染物質として,あまり注目されてこなかったが,自動車用燃料や燃料電池の水素源として新たな用途が広がりつつあり,生活環境中にメタノールガスが拡散する可能性が指摘されている。二酸化マンガンは室温でホルムアルデヒドと反応し二酸化炭素を生成することから,空気清浄材料の成分として実用に供されている。この二酸化マンガンが常温でメタノールガスをホルムアルデヒドにまで酸化できれば,ホルムアルデヒドの酸化分解と同様に常温常圧下で二酸化炭素にまで無機化できる可能性がある。そこで本研究では,物性の異なる4種類の二酸化マンガン粒子とメタノールガスの反応性を密閉式試験で調べた。その結果,室温において試験容器内の気中メタノール濃度は著しく減衰し,その減衰速度は二酸化マンガン粒子の比表面積に依存的であった。同時に気中二酸化炭素濃度の有意な増加が観測され,二酸化炭素への転化率は結晶構造に関係した。また反応容器中に中間体として極微量のホルムアルデヒドおよびギ酸種の生成を認めた。このことから,二酸化マンガンがメタノールガスに対しても常温酸化分解活性を有することが明らかとなった。
著者
橋本 明憲 高橋 俊樹 松本 健作 鵜崎 賢一
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.147-161, 2012 (Released:2012-12-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

家庭に於ける花粉除去手法として最も普及しているのは空気清浄機である。SubGrid-ScaleモデルとしてCoherent Structure Modelを用いたLES,粒子挙動シミュレーション,及びその解析や可視化を行う自作ソフトウェア群Computational fluid dynamics and Aerosol Motion Property Analysis Suite(CAMPAS)を開発し,縦5 m横5 m高さ2.5 mの室内床面中央に配置した前面吸気上面排気型の空気清浄機による,スギ花粉挙動を解析した。その結果,このモデルの空気清浄機は,室内に一様分布させた花粉の4割程度しか吸入できず,5割強の花粉を落下させてしまうことが分かった。また,空気清浄機の吸気面以外の面である側背面や,部屋壁面に花粉が衝突し,落下しやすいことが明らかになった。空気清浄機の吸気面前方領域に存在する花粉は吸入しやすく,また,後方領域の花粉も排気により再度上昇させることで吸入できることが判明した。空気清浄機が吸入しやすい,吸気面からの方位角θや仰角φが存在する。この角度の値は吸排気モデルに依存すると考えられる。従って,空気清浄機の吸排気仕様を変化させ,花粉を吸入できる領域を拡大することで,花粉除去率のさらなる向上が期待できる。
著者
笈川 大介 高尾 洋輔 村田 真一郎 竹内 弥 下山 啓吾 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.113-121, 2011
被引用文献数
2 3

東日本大震災により多くの住民が避難生活を余儀なくされている。避難者の生活を一時的に安定させるため,約72,000戸の応急仮設住宅(以下,仮設住宅)が宮城県,福島県,岩手県などに建設されている。一方,国外の災害において,仮設住宅に避難した住民が高濃度ホルムアルデヒド曝露により健康被害を受けた事例がある。宮城県では国土交通省の指示に基づき,仮設住宅の供給メーカーに対して1発注につき1戸(50~60戸に1戸)の割合で住宅性能表示制度に定める特定測定物質5物質(ホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,エチルベンゼンおよびスチレン)の室内濃度測定を課し,仮設住宅の空気性能の管理に務めている。しかしながら法定5物質以外の物質が室内空気を汚染する可能性があり,詳細な化学物質調査が必要である。そこで筆者らは,宮城県の協力のもと,2011年6月20日に宮城県内1地区の仮設住宅5戸,6地点を対象に室内空気中化学物質濃度の現地調査を行った。対象物質はアルデヒド・ケトン類3物質,揮発性有機化合物43種類およびTVOC(Total Volatile Organic Compounds)濃度とした。その結果,法定5物質を含む室内濃度指針値の設定されている物質は,測定点全てにおいて指針値以下の濃度レベルであった。しかしTVOC濃度は1700~3000μg/m<sup>3</sup>で暫定目標値の4倍~7.5倍であり,指針値の設定されていない化学物質の寄与が高かった。
著者
野崎 淳夫 成田 泰章 二科 妃里 一條 佑介 山下 祐希
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.33-44, 2015 (Released:2015-06-01)
参考文献数
21

本研究では,24時間換気装置が設置された一般住宅において,1)開放型石油暖房器具(石油ファンヒーター)使用時の室内汚染物質濃度を実測調査により明らかにし,次に2)大型チャンバーを用いて,実測調査で使用した石油ファンヒーターの汚染物質発生量を求めた。結果として,1)実測調査から器具使用時にはヘプタン,トルエン,オクタン,ノナン,デカン,ノナナール,ウンデカン,デカナール,ドデカン,トリデカン,テトラデカンなどの室内濃度が上昇し,特にデカン類の室内濃度が上昇した。また,NO2濃度は器具使用50分後に395 ppbに達し,大気汚染防止法による大気環境基準の6.6倍の値が測定された。2)実測調査で器具使用時に確認されたエタノール,アセトン,トルエン,ヘプタンは,建材や日用品などに由来する。3)チャンバー実験により,テストした石油ファンヒーターからはオクタン,m, p-キシレン,o-キシレン,ノナン,1,2,4-トリメチルベンゼン,デカン,ウンデカン,ドデカン,トリデカン,テトラデカン,ペンタデカンの発生があり,また器具非使用時においても,オクタン,m, p-キシレン,ノナン,デカン,ウンデカン,ドデカントリデカンなどが発生していた。4)石油ファンヒーターの燃料消費量率は,器具使用開始から10分間が最も大きく,他の時間帯の2.15~2.87倍を示した。5)燃料単位重量当たりの石油ファンヒーターのTVOC発生量は0-10分値と10-20分値で,それぞれ90,317と858,204 μg/kgであった。
著者
原嶋 寛 永長 久寛 伊藤 一秀
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.89-102, 2015 (Released:2015-12-01)
参考文献数
83

除染ならびに消毒剤としてのオゾン利用は,その強い酸化力や比較的低いランニングコストといった利点より,既に長い研究蓄積があり,特に,水中での微生物に対するオゾンの反応性の高さは良く知られている。しかしながら,オゾンガスによる室内環境除染に関しては,既に実用段階にあるとは云うものの,除染や消毒,対象とする微生物の不活性化作用に関しては完全にメカニズムが解明されている訳ではなく,ある程度の安全率を考慮して使用されているのが実情である。本論では,室内環境除染へのオゾンガス利用に関して,既報研究を詳細にレビューすることで,これまでの知見と現況を整理した上で,今後の課題と展望までを整理する。加えて,本論では,除染効果の定量的な予測手法の基礎となりうる室内のオゾン濃度分布予測のための数理モデル開発の動向に関しても整理する。
著者
堀 雅宏
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.9-19, 2010 (Released:2012-06-01)
参考文献数
95
被引用文献数
2 2

この総説ではTVOCの定義,測定法,生体影響と基準値,効用と限界などについてまとめるとともに,その使い方あるいは使われ方,TVOCのおかれている状況やTVOCを巡る経緯や諸問題について述べた。TVOCは室内空気中に多種類存在するVOCの総合的簡易表記法として,またその汚染影響の可能性を示すものとして提案され,多くの調査研究で用いられてきたが,TVOCは本質的に毒性学的な指標にはなりえず,また,現行のVOC・TVOC測定法では見逃される微量刺激成分の存在により,汚染レベルを示す指標としての欠陥が指摘されている。しかし,TVOCは基準値の設定されていない多くのVOCが共存する中で,発生源や建材の評価や監視を通してまた,VOCリスクの低減をはかるための大まかな環境管理指標として意義がある。