著者
廣居 伸蔵 吉田 真奈美
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.41-47, 2018-05-31 (Released:2018-07-09)
参考文献数
10

2016 年より一定の条件を満たす医薬品・医療機器について費用対効果評価が試行的に導入された.費用対効果評価に必要なデータのうち,患者数や治療実態,評価対象技術や比較対照の費用や有害事象の発現率,合併症の罹患率およびそれぞれの費用については,既存の大規模な医療データベースの利活用によって推定することが可能である.日本の医療経済・アウトカム研究において,主に使用されているデータベースは,レセプトデータベースと,病院のデータベースとに大別され,製薬企業の立場から利用しやすい代表的なデータベースとして,それぞれ,株式会社日本医療データセンターの健康保険組合データベース,メディカル・データ・ビジョン株式会社の DPC 診療データベースがある.各データベースには特色があるため,分析に用いたデータベースの限界が研究結果にどう影響しうるかについて考察することが肝要である.これらのデータベースの限界を克服しうるデータベースとして,レセプト情報・特定健診等情報データベース (NDB) や MID-NET が挙げられる.しかしながら,これらのデータベースであっても,現状ではデータの充足性や一般化可能性に課題がある.また,利用者や利用目的が厳格に制限されているため,製薬企業の立場からは,利用するうえでのハードルが非常に高い.今後は制度化される費用対効果評価の目的においても,これらのデータベースが広く利用可能となることが望まれる.製薬企業では,今後急速に整備が進んでいく医療データベースにキャッチアップして,必要ならば複数のデータベースを組み合わせて,より妥当性のある分析をしうるリテラシー,能力を有することが喫緊に望まれる.これらは製薬企業のみで完結しうるものではなく,アカデミアや外部ベンダーと協働して,日本の費用対効果評価を含む医療経済・アウトカム研究を担う人材のキャリアプランを確立していくことが必要である.