著者
呂 晶
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.161-178, 2016-01-15

私たちが暮らす社会には,あらゆる場所に,あらゆる姿をした広告が存在 している。広告を目にせずに,一日が過ぎるということは,まずないと言っ ても過言ではないであろう。そして,私たちは生まれたときから,大量の広 告に囲まれてきており,誰もが広告を水や空気のような「存在して当たり前 のもの」と受け止めていると見ることができるように思われる。また,広告 は多種多様な媒体によって伝達されているが,本稿は,印刷媒体を使った広 告を中心に扱い,それらの広告におけるキャッチコピーを考察の対象にする。 なお,キャッチコピーの形式に注目すると,中には平叙文,疑問文,命令 文などのような文の体裁をなすものもあれば,「羊の数だけ感動があるニュー ジーランド」のような文の体裁をなさない広告表現もある。本稿では,後者 のような広告表現を非述定文と呼び,統語論と語用論の観点からこの種の広 告表現について考察する。考察の結果,広告における非述定文には,名詞か らなるものと感動詞からなるものの二種類があることがわかった。そして, 用例のほとんどは,前者の名詞からなる非述定文であることもわかった。広 告における名詞からなる非述定文は,普通の非述定文と比べて,その構造が 複雑となっており,連体修飾構造を持ったものが多い。また,広告における非述定文の発話機能に間していうと,名詞からなる非述定文は《感情表出》と《情報提示》を表すことができ,感動詞からなる非述定文の発話機能は《感情表出》であると考えられる。
著者
呂 晶
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.161-171, 2014-12-20

広告表現の解釈プロセスを考察する際,それを形式と意味という二つのレベルに分けて考えなければならないと思われる。本稿では,前者を「形式処理」,後者を「意味解釈」とそれぞれ呼ぶことにする。広告表現の形式処理は,その下位分類として,表意復元と逸脱修正が挙げられる。表意復元は,形式的不完全な広告表現を詳細化によって完全な文形式に復元する作業である。逸脱修正は,統語規則に違反するもの(逸脱)を正しい表現に修正することである。なお,広告の意味解釈に際して,受信者は,まず,広告表現の文意味を理解する。そして,文脈から得られたいろいろな情報を用い,発話レベルで意味解釈を行う。広告の解釈では,既存の文脈情報が極めて少ないので,文脈創成というプロセスが行われている。文脈創成によって架空の文脈を作り出し,それを既存の文脈と合わせて,広告解釈に充足な文脈を揃える。その後,文脈情報を用いて,幾つかの段階を経て得られた推論は推意である。この推意は,結局,受信者の知識記憶に収蔵されると考えられ,必要な時に知識文脈として働き,受信者の行動に影響を与えると考える。