著者
呉 書雅 島 一則 西村 君平
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.207-229, 2019-05-31 (Released:2020-06-03)
参考文献数
46

長らく奨学金が社会問題化している.奨学金を批判する報道が繰り広げられ,学術的な文脈でも,奨学金が若年層の貧困化などの原因と論評されている.しかし,少数の事例に関する報道や政府統計に基づく簡易的な統計分析,さらには未返済の側面のみに集中して,脆弱なエビデンスに依拠して奨学金政策そのものを退ける論調には疑義を挟まざるを得ない.そこで,本研究では,生活時間に着目し,奨学金政策が大学生活に与える影響を傾向スコアマッチングで検証する.分析の結果,国公私立大学を問わず,奨学金によって学習活動時間が増加していること,偏差値45未満の私立大学の学部でも学習活動に正の影響を与えていることが明らかになり,奨学金の返還に関わる一部の事例をもって奨学金政策全体を非難する言説に対する反証が得られた.
著者
西村 君平 呉 書雅
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.237-256, 2022-08-10 (Released:2023-12-23)
参考文献数
34

本稿の目的は,高等教育研究におけるRCTへの懐疑を踏まえて,RCTの方法論とは別の科学的認識論の観点から1)エビデンスの特徴,2)その構築の過程を明らかにすることである.本稿では科学的認識論に依拠したEBPM論である「活用のためのエビデンス論」とその基礎にある科学的実在論論争の知見を,高等教育研究への応用を視野に理論的に検討する.これにより1)EBPMのエビデンスには,抽象度の異なる概念により構成された階層的な理論とその理論によって架橋された文脈の異なる多様な経験的根拠が求められること,2)エビデンス構築のためには,理論の妥当性をその理論が構築されたときには想定されていなかった文脈において検証していく必要があることを明らかにする.最後に高等教育のEBPMの課題とその解消の展望について考察する.