著者
小山 治
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.199-218, 2017-07-31 (Released:2019-05-13)
参考文献数
31

本稿の目的は,社会科学分野の大卒就業者に対するインターネットモニター調査によって,大学時代のレポートに関する学習経験は職場における経験学習を促進するのかという問いを明らかにすることである.本稿の主な知見は,次の3点にまとめることができる.第1に,レポートの学習行動のうち,学術的作法は経験学習と相対的に強い有意な正の関連があったという点である.第2に,レポートの学習行動のうち,第三者的思考も経験学習と有意な正の関連があったという点である.第3に,レポートの学習行動以外の大学時代の変数は経験学習と強い関連がなかったという点である.以上から,本稿の結論は,大学時代のレポートに関する学習経験の中でも学術的作法と第三者的思考といった学習行動は職場における経験学習を一定程度促進するということになる.
著者
居神 浩
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.127-145, 2018-05-25 (Released:2019-05-25)
参考文献数
23

高等教育の根源的な変化を語るための視点として「マージナル大学」の概念を提起して以来7年になる.その間,思いがけず様々な方々から様々なご意見ご感想を頂いてきたが,痛感するのはそれぞれの「認識の準拠枠組み」の小さくないズレである.このズレが生産的な議論を展開するための大きな障壁となっている.本論ではその点を特に意識しながら,まずますます多様化する「ノンエリート大学生たち」に伝えるべき教育内容についての持論を再提示する.そのうえで,これを教授団として議論・実践する際の困難・展望について検討する.さらに高等教育政策の現状および今後の展開に鑑みて,学生の多様化を正面から見ようとしない大学論への絶望とささやかな希望を語りたい.
著者
呉 書雅 島 一則 西村 君平
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.207-229, 2019-05-31 (Released:2020-06-03)
参考文献数
46

長らく奨学金が社会問題化している.奨学金を批判する報道が繰り広げられ,学術的な文脈でも,奨学金が若年層の貧困化などの原因と論評されている.しかし,少数の事例に関する報道や政府統計に基づく簡易的な統計分析,さらには未返済の側面のみに集中して,脆弱なエビデンスに依拠して奨学金政策そのものを退ける論調には疑義を挟まざるを得ない.そこで,本研究では,生活時間に着目し,奨学金政策が大学生活に与える影響を傾向スコアマッチングで検証する.分析の結果,国公私立大学を問わず,奨学金によって学習活動時間が増加していること,偏差値45未満の私立大学の学部でも学習活動に正の影響を与えていることが明らかになり,奨学金の返還に関わる一部の事例をもって奨学金政策全体を非難する言説に対する反証が得られた.
著者
羽田 貴史
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.133-153, 2022-08-10 (Released:2023-12-23)
参考文献数
28

本稿は,占領下の1947年から1951年にかけての大学管理法構想が,CI&E教育課,文部省,教育刷新委員会の対抗・協調関係のもとでどのように具体化されたかを,明らかにする.今までの研究は,占領文書の分析が不十分で,教育課内部の複雑な事情を検討していない.大学管理法案は,教育課高等教育班のイールズによる外圧から始まったにもかかわらず,日本側は,教育課首脳と協力しながら大学理事会法の制定を防いだ.イールズ案が撤回になった後,民主的に組織され,組合関係者も参加した大学管理法案起草協議会による法案作成という戦後改革でも稀な手続きで法案が作成された. 法案そのものは国会で廃案になったが,大学自治を明確にする点で画期的な内容であった.すなわち,合議制機関としての評議会・教授会の権限を明確にし,執行機関としての学長・学部長の権限を定め,同僚制に基づく学内管理機関と商議会の設置による地域社会への責任の明確化,国立大学審議会による文部行政権のコントロールも意図した画期的な内容であった.
著者
山本 清
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.97-118, 2020-07-15 (Released:2021-08-12)
参考文献数
31

国際的な成果主義・業績主義の流れの中で,教員の人事評価がいかなる背景と理論を持っているか,また,どの程度我が国で適用されているかを個別大学レベルで分析した.得られた結果は,成果志向・業績志向は政府・文科省の大学改革により急速に強まり,人事評価の結果を処遇に反映させることも浸透しつつあることである.この背景には,NPMの成果主義とスタッフの業績に応じた報酬を与えることでモチベーションが高まるとする期待理論がある.しかし,大学教員の教育・研究・社会貢献の成果を同精度で組織への寄与を含め測定することは,容易なことではない.したがって,人事評価の展開に際しても,業績測定の改善や教員の動機づけ要素並びに報酬の財源などに注意を払う必要があろう.
著者
濱中 義隆 足立 寛
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.165-181, 2013-05-30 (Released:2019-05-13)
被引用文献数
5

1997年7月に設立された日本高等教育学会は,設立から15年が経過し,会員数も700名を超えるまでに発展してきた.設立当初に比べ,会員の所属や身分も多岐にわたり,研究関心も多様化し,学会に期待される役割もまた変化しつつあるのではないかとの認識が高まりつつあった.こうした現状認識を背景として,創設15周年記念事業の一環として,2011年3月に全ての会員を対象としたアンケート調査を実施し,会員の学会における活動状況ならびに本学会に対する意見や要望等を把握することとなった.本稿は会員調査の分析結果を報告するものである.調査の結果,近年,入会者に教員・研究者以外の者の比率が高まっていること,これにともない学会の役割として研究発表の機会としてだけでなく,実務上有益な情報収集の場としての機能が求められており,会員の研究関心を集める領域もまた変化しつつあること等が明らかになった.
著者
村澤 昌崇 立石 慎治
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.135-156, 2017-07-31 (Released:2019-05-13)
参考文献数
59

本稿では,高等教育関連の学会誌・機関誌に過去10年間に掲載された計量分析を用いた論文をレビューした.我々が分析の際に行ってしまう傾向がある各種の課題,すなわち必要最低限の情報の不記載や,分析の前提から外れた手法の適用,過剰な解釈等を確認しつつ,これらの課題を乗り越え望ましい分析結果を得るための,いくつかの対応策や新手法の有効性を分析事例とともに提案した.関連する議論として,筆者らの限界により詳細には取りあげなかった先進的手法への期待,論文の紙幅制限によって記載できない情報を共有する仕組みの重要性も併せて指摘した.最後に,高等教育研究における計量分析の質の向上と卓越性について,学会全体で取り組むべきことであることを述べた.
著者
久保 京子
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.155-174, 2021-08-10 (Released:2022-08-10)
参考文献数
30

本稿の目的は,Nature PhD Career Survey 2019を用いて大学院生における研究時間の長時間化の要因および長時間研究文化と教育/研究成果への満足度の関係の性差を明らかにすることである.本稿から得られた知見は以下の3点である.第一に,研究時間の長時間化は男女共通して長時間研究文化によって促進され,男性では若年者で促進され,女性では若年者や12歳未満の子どもを持つ学生で阻害される.第二に,長時間研究文化は女性の教育への満足度に負の影響を及ぼす.第三に,長時間研究文化は女性の研究成果への満足度に負の影響を及ぼし,長い研究時間そのものは男性の研究成果への満足度を高める.以上の知見から,自然科学系分野でみられる長時間研究文化は女子学生の教育/研究成果への満足度に不利に作用するといえる.
著者
末冨 芳
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.207-228, 2008-05-26 (Released:2019-05-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1

大学立地政策とは工場等制限法における大学新増設規制とともに,文部行政による設置認可や定員管理といった複合的な法・政策を意味する.本稿では大学立地政策の規制効果を検証するために,東京都所在大学を対象とし,大学の立地動向の質的分析と学部学生数および大学移転の変動に関する量的分析を行った.対象年度は1955,1965,1975,1985,1995,2005年度の6時点である. 先行研究においては日本における大学進学率の上昇とそれとともに浮上した地域間の進学機会格差,その是正のための大学地方分散の必要性といったことがらへの関心から,文部省の高等教育計画・政策に関する政策研究や,大学立地政策が大学生の地域間移動におよぼした影響の計量的評価等の分析が蓄積されてきた.ただし,大学立地政策の規制対象となった都市に中心的に着眼し,大学の立地や学生数がいかなる変動を見せてきたのか,という視点からの研究が不足しており,この分野での研究の蓄積が必要とされる状況にある. こうした課題意識のもとで,東京都に所在した大学について学部・学科・学年別に所在地と学部学生数をデータベース化し(東京都所在大学データベース),所在地に関する質的分析と,学部学生数と大学移転パターンに注目した量的分析を行った. その結果,(1)先行研究ではあきらかとはなっていなかった東京都規制対象地域における学部の新増設抑制効果は1975-85年度に顕著であったこと,(2)1995年度と2005年度データの比較から学部学生の「都心回帰」はまだ確認されないこと等が判明した.
著者
鳥居 朋子
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.79-94, 2014-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
13

本稿は日本の大学におけるプログラム・レビューへの示唆を得ることを目的に,マサチューセッツ大学アマースト校とカリフォルニア州立大学ロングビーチ校に注目し,プログラム・レビューの枠組みや体制,大学のミッションや戦略的計画とプログラム・レビューの関係,レビューにおけるIRの役割機能等を検討した.その結果,①多様な学生集団を抱える大学が学生の成功を期した教育改善を実現するには,学位プログラムと教育支援プログラムを対象にした包括的なプログラム・レビューが必要となること,②大学のミッションや戦略的計画と整合したレビューの重点設定や,重点に沿った問いに導かれたセルフスタディが有効であること,③問いを解く過程でのデータ提供や新規調査開発においてIRの機能が発揮されることが明らかとなった.
著者
川崎 成一
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.93-112, 2019-05-31 (Released:2020-06-03)
参考文献数
24

本稿は,米国大学の資産運用の基本的な枠組みを形成してきた,フィデューシャリー・デューティーの概念を軸に米国信託法の変遷を辿りながら,そこからみえる日本の私立大学における資産運用の特質と,近年みられる新しい資産運用の取り組みについて論じる.日本の私立大学は,本来フィデューシャリーとみなされるが,その資産運用はプルーデント・マン・ルールやプルーデント・インベスター・ルールからは乖離した,ポートフォリオ概念の欠如や単年度志向と公平性の希薄さ,自家運用,使い切り型の疑似基金という特質を有する.しかし,近年では,ポートフォリオ運用や外部運用,教育理念と合致した運用がみられ始める等,フィデューシャリーとしての責務を果たしていこうとする動きがみられる.
著者
立石 慎治 小方 直幸
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.123-143, 2016-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
16
被引用文献数
6

本稿の目的は,高等教育の大衆化がもたらす大学生の多様化のうち,特に退学と留年に着目し,その実態と発生のメカニズムを,学部を単位として実証的に検討し,抑制の可能性も視野に入れて考察することであり,その結果明らかになったのは以下の3点である.その結果,以下の3点を明らかにした.第1に,退学と留年を統合的に考察し,4類型に基づく学生の動態の規定要因を析出した.第2に,退学率と留年率の分岐点を探索し,学部がおかれた様々な文脈を考慮しつつ,退学と留年問題に取り組む必要性を,具体的に提示した.第3に,退学と留年に対する教育・学習支援の介入効果を分析する過程で,大学教育の効果研究に用いられる横断的調査の可能性と限界を批判的に検討した.
著者
喜始 照宣
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.191-211, 2015-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
19

本稿では,作家志望の学生の卒業後進路選択に着目し,彼らの語りをもとに,美術系大学において就職者率の低さが生じるメカニズム解明を試みる.分析では,まず作家志望者の学卒後メインルートである大学院進学とアルバイト等の選択理由を検討し,それぞれの進路選択に含意された学生の意図や戦略を確認する.つぎに,彼らにとって就職が選ばれにくい背景として,実技重視の教育体制のもと,就職を「制作の休止・趣味化」とする独自の意味が生成されていることを指摘し,それは実技系教員―学生間,学生同士の相互行為により維持・強化されることを示す.しかし他方で,就職は制作継続のためであれば必ずしも忌避されておらず,彼らは大学界と美術界の論理の狭間で進路をめぐる不安や葛藤を経験していることを最後に明らかとする.
著者
天野 郁夫
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.157-176, 2017-07-31 (Released:2019-05-13)
参考文献数
13

この度日本高等教育学会から,学会創立20周年行事の一環として学会設立当時の状況や設立の背景や学会の現状について,初代学会会長として一文を寄稿するような依頼があった.学会設立の事情を語るには,高等教育研究の制度化の源流に遡って見ていく必要がある. 私が高等教育研究に関心を持ったのは,1960年代の初め,東京大学大学院の教育社会学専攻に在籍していた頃からである.当時,高等教育研究は,細々とやられていたにすぎなかった. 学会創設以前の高等教育研究に大きな役割を果たしたのは,大学史研究会,IDE文献研究会,広島大学・大学教育研究センター(現高等教育研究開発センター)などである.特に1972年のセンターの創設は,エポックメイキングな出来事であった. その後,マス化の進展とともに顕在化し始めた,高等教育の新しい政策課題に対応するため,文部省は国立教育研究所に高等教育研究室を置いたほか,大学入試センター(1976),放送教育開発センター(1978),学位授与機構(1991),国立学校財務センター(1992)など,次々に大学関連のサービスセンターを開設し,そこに調査研究関連の部局を置いた.さらに国立大学に大学教育関連のセンターが順次設置され,私立セクターでも,同様のセンターを設ける大学が現れ始めた.また1980年代の後半になると,玉川大学出版部が高等教育関連の本を,積極的に刊行し始めた. 東京大学教育学部にようやくわが国最初の「高等教育論講座」の新設が認められたのは1992年,私が初代の教授に就任した. このように高等教育学会の創設に至る,私が体験してきた高等教育研究の流れと時代状況の変化をたどってみると,1990年代半ばという時代が,その機が熟したというべきか,様々な条件と環境が,学会の設置に向けて整い始めた時代であったことがわかる. 1997年9月には東京大学で発会式を迎えることになった.私たちからみれば新世代の高等教育研究者たちの熱意と努力の賜物である.教育社会学の関係者が多いとはいえ,多様な専門分野から理事が選出され,他の教育関連諸学との関係が深まった.高等教育研究者の集まる「アゴラ(広場)」の出現である. その後,2010年から11年にかけての『リーディングス 日本の高等教育』の刊行は時代の「激流」に巻き込まれ,「あわただしく」対応を迫られてきた高等教育研究に対する「批判的反省と学問的な問い直し」の試みという点で,重要な意味を持っている. 今世紀に入ってからの新自由主義的な政策誘導の高等教育改革という高等教育研究を取り巻く状況の激変は,研究者に期待される専門性の内容が大きく変化し,その幅が著しく拡大したことを示唆している.改革は具体的な実践の問題になった.そのことが例えば学会の年次大会における研究発表の,また会員の出身専門分野のどのような変化をもたらしているのか.20周年を迎えた学会が,「批判的自省」を踏まえた「さらなる発展と飛躍」をはかるためにも,改めて検証する必要があるだろう.教育社会学以外のどのような学問的・理論的よりどころをもとに知識と理解を深めていくのか,学会は今それを問われているといってよい. 世代交替の進んだ学会が主導的に,研究の新しいフロンティアを切り開いていくことを期待している.
著者
西井 泰彦
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.135-161, 2019-05-31 (Released:2020-06-03)
参考文献数
8

本稿の目的は,1960年から現在に亘る文部科学省と日本私立学校振興・共済事業団の財務上の統計資料を利用して,私立大学の借入金を巡る動向とを振り返り,借入金に関する問題点と意義を分析することである. 日本の私立大学は,二度に亘る学生急増期と減少期を経過する中で,借入金を活用して施設設備を取得して,大学の規模の拡大を図ってきた. 借入金の比重が増大したが,その後,学生数が増加するとともに,財政上の改善が進み,自己資金が増加して借入金の返済が可能となった. しかし,近年,私立大学の拡張が止まり,財政が再び悪化している.学生数の長期的な減少が予測されており,私立大学が安定的な経営を持続するための借入金のあり方と課題を検証する.
著者
森田 美弥子
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.93-106, 2018-05-25 (Released:2019-05-25)
参考文献数
21

本稿は,学生相談の視点から大学生が抱える問題の多様化を論じる.学生相談というと,悩みを抱えたり不適応に陥ったりした学生のためのものとみなされやすいが,決してそうではない.広義の教育の一環として位置付けられている.昨今では,学生相談担当者や担当部署のみならず,キャンパス構成員全体で取り組む課題として学生支援が重視されるようになっている. 最初に学生相談の歴史を概観した後,学生相談という文脈で注目されてきたトピックス:(1)スチューデント・アパシー・(2)ふれあい恐怖心性・(3)発達障害傾向を紹介する.大学生における青年期心性の変化が生じているのかいないのか,学生支援の動向とそこで留意すべきことは何か,について検討する.心性という言葉を用いたのは,思考や感情といった心理的機能や行動特性などを含みつつも,青年自身の志向性,メンタリティ,その時々の心の動きに目を向けていたいという姿勢からである.
著者
半田 智久
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.287-307, 2011-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1

当研究は国際的な観点から大学の成績評価制度におけるGPAの受容と運用の実態を知るために33ヵ国,311大学に実施した質問紙調査の分析報告である.主たる結果は次のとおりであった.米国,欧州,アジア,豪州に分けてみると,GPA制度の運用実態は地域によって大きな違いがあり,米国と日本以外のアジアの大学では9割以上で運用されている反面,欧州での運用は約2割に留まっていることがわかった.レターグレードによる成績等級とGPとの関係をみると,米国の大学ではGP の最大値を一般に4.0にしているが,これを国際的な標準とみなせる証拠は見いだせなかった.現況,同指標の国際的な通用性は成績に当該科目の単位数を関係させるというGPA 制度の根幹をなす算定原理についてのみ認めることができた.
著者
林 隆之
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.9-31, 2020-07-15 (Released:2021-08-12)
参考文献数
25

日本で大学の第三者評価制度が導入されてから20年が経つ.本稿ではこの間を振り返り,日本の大学評価の特徴はどのようなものであり,その焦点や方法がいかに変化してきたかを検討する.認証評価も国立大学法人評価も導入時には各大学の理念や目的・目標を重視し,評価を通じてマネジメントサイクルの確立を求め,評価結果の比較可能性を否定してきた.それゆえに評価への関心も高まらず,別の評価類似の取組が生まれることとなった.しかし,次第に学修成果の測定や研究成果の多面的測定が求められ,国立大学法人評価では分野ごとの共通的な観点や指標も検討されるようになってきた.さらに近年は,内閣府や財務省等から大学の教育研究の成果に対する客観的評価の要請も強く示されるようになっている.それに応えるためには,大学評価は制度的な見直しが必要となる.
著者
大桃 敏行
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.47-63, 2013-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
54
被引用文献数
1

教育行政学は領域的な学問であり,日本教育行政学会の機関誌に掲載された高等教育関係の論文でも多様な研究方法が用いられてきた.また,領域についても機関誌掲載論文の対象はかなり広範囲に及んでいる.この方法の多様性と対象の広がりの一方で,教育行政学は高等教育を主対象としてこなかった.そのため,高等教育行政研究の各領域で一層の研究の蓄積が必要となるが,本稿では3つの課題を示した.第一に高等教育の政策過程の研究であり,多様なアクターの活動分析とともに行政機関内のよりミクロな分析が必要なこと,第二に高等教育のガバナンス改革の研究であり,諸外国の改革動向をふまえた分析が必要なこと,第三に高等教育制度や行政に関する規範的研究であり,規範に関わる理論構築が必要なことである.
著者
原田 健太郎
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.237-253, 2009-05-23 (Released:2019-05-13)
参考文献数
25

本稿では,大学の教科書を分析対象にして,大学教育の標準性の実態について基礎的・試験的な検討を行った.これまでの大学の教科書に関する研究の蓄積について整理した上で,索引を用いて,大学の教科書における標準性の共時的差異と通時的変化を明らかにした.標準性を測る指標としては,浦田(1987)で作成された合意度という指標を用いた.この分析に加えて,記載の頻度の高い単語に注目し,教科書の内容の変化についての検討も行った.結果としては,調査した三つの専門分野全てで標準化が進んでいること,文系分野よりも理系分野で標準性が高いこと,文系分野では会計学が教育学よりも標準性が高いこと,また,記載頻度の高い単語は,物理学では変化の程度が低く,教育学では変化の程度が高いことなどを明らかにした.