著者
呉 盈瑩 藤田 剛 樋口 広芳
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.659, 2004 (Released:2004-07-30)

日本の南西端に位置する石垣島は、個体数の減少が懸念されている猛禽類サシバの日本における主要な越冬地である。サシバは毎年10月から翌年の3月まで、石垣島の主要な農地環境である牧草地で採食する。演者らは、まず、この地域での越冬期を通したサシバの生息地利用と食物品目などを2002年から2004年に調査した。ラジオテレメトリーや色足環によって個体識別を行ない、のべ6羽の個体追跡を行った結果、すべての個体が越冬期を通して行動圏を農地内に維持していた。一個体の一日の行動圏面積は、越冬期内の時期によって変化し、最小0.09 km2、最大 0.48 km2だった。サシバの越冬期における食物の95%以上がバッタ類であった。サシバは、止まり場に止まり、その周辺で発見した食物動物を採食する、待ち伏せ型の採食様式をとる。調査地のサシバが止まり場として利用したのは、スプリンクラー、電柱、防風林だった。行動圏内の利用様式に注目すると、観察された採食行動の95%は、牧草地での採食だった。牧草地一区画あたりの面積(2700_から_8100 m2)は、サシバの行動圏にくらべて小さく、サシバは、一日のあいだに何度も採食のために待ち伏せする牧草地の選択と放棄を繰り返していた。牧草地では刈り取りが年4回から6回行われているが、この刈り取りの繰り返し期間は牧草の品種、牧草地の立地、栄養条件などによってちがっているため、サシバの行動圏内にはさまざまな草丈の採草地がモザイク状に存在していた。そこで、演者らはサシバによる牧草地の選択と放棄過程に注目し、牧草の刈り取り、草丈、牧草地の配置、待ち伏せ場所であるスプリンクラー数、そして食物であるバッタの密度などが、サシバの採食パッチ選択と放棄にどう関わっているのかを解析した。今回は、これら越冬期におけるサシバの生息地利用と、その利用様式に関わる採食パッチ選択と放棄に影響する要因について報告を行う。